#01 浄法寺の良質な漆

岩手県二戸市にある人口わずか5千人ほどの小さな町、浄法寺。
ここには文化財建造物の保存に必要な資材の供給林及び研修林となる「ふるさと文化財の森」第1号として登録された「浄法寺漆林」があります。
流通する漆のわずか5%程しかないという貴重な国産漆のうち、7-8割を浄法寺漆林を中心に二戸地域で採られる「浄法寺漆」が占めています。
ここには、漆の木を削った切り込みから漆を採取する「漆搔き」や、器の原型をつくる「木地師」、そして「塗師」といった漆を生業とする職人たちが暮らし、彼らがつくり出す「浄法寺塗」と呼ばれる漆器は長く人々の間で親しまれていました。
しかし、戦後になりプラスチック全盛の時代を迎えると、浄法寺の漆産業は壊滅状態にまで追い込まれることに。
そこで伝統の漆器生産を蘇らせようと立ち上がったのが、この地で生まれ、漆の匂いとともに暮らしてきた岩舘家の人々でした。


浄法寺の漆は品質が高く、採れた漆の多くが文化財などの修復にあてられています。
その浄法寺の良質な漆を世に広めたのが、腕利きの漆掻きでもあった岩舘正二さん。そして、浄法寺塗の「塗師」の技を復活させた人物が、浄法寺塗で唯一の伝統工芸士でもある息子の隆さんです。塗師になることを志した当時、浄法寺には塗師が一人もおらず、盛岡にある工房で修行。様々な人の力を借りて漆器づくりを習得、その後、独立して、浄法寺塗の素晴らしさを伝えるために全国各地へと売り込みに出かけたそうです。そんな隆さんの背中を見て育った巧さんも、同じく「塗師」に。親子3代に渡って漆の道を歩んでいます。