展示場所:
本館1F GRAND PATIO
展示期間:
2025年3月1日〜6月30日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、「いけばな草月流」の師範であり、植物との向き合いを立体やインスタレーションなどさまざまな作品に落とし込むアレキサンダー・ジュリアンさん。現在の作風が生まれた背景や、創作において大切にしている価値観などについてお聞きします。
『衛星を追う』金柑 オモト 2024
『衛星を追う』金柑 オモト 2024
展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2025年3月1日〜
5月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、「いけばな草月流」の師範であり、植物との向き合いを立体やインスタレーションなどさまざまな作品に落とし込むアレキサンダー・ジュリアンさん。現在の作風が生まれた背景や、創作において大切にしている価値観などについてお聞きします。
子どもの頃から野菜を育てたり植物が好きでした。今日もチューリップに囲まれています。植物と向き合っていく中、友人から頼まれて音楽イベントのブースの周りの植栽をしたことがきっかけで、ファッションルックに参加したりするようになり、徐々に制作活動をするようになっていきました。たまに僕のことを「アーティスト」と呼ぶ方もいますが、僕自身はいち花屋としか思っていません。花屋に「お」をつけて「お花屋さん」と呼ぶ方がエプロンとかつけてそうでカワイイですよね。
練習 2024
20代前半の頃、とある花屋で働いていたのですが住んでた街の中心街にセンスのいいお花屋さんがあり、仕入れてるお花を見たくて客として通っていました。ある時、オーナーさんに話を聞いてみたところ、そのお花屋さんの2階でいけばな教室を開催していることがわかりました。花屋人生を続けていく上でのスキルとしてアレンジメントや花束以外の強みがほしかったし、僕みたいに見た目がナードだけど権威的な「師範」ってキャラになったら面白いだろうなと思い習い始めました。習い始めた当初は、草月流という認識はありませんでしたが、後々調べたところ、いけばなの中でも前衛的で革新的な流派であることがわかりました。
基本的な型はありますが訓練すると自由にいけられることです。ただ気をつけないといけないのは、植物はすでに非常に豊かな表現力をもっているため、ややもするとそれに頼ったり、よりかかったりした状態になりがちです。この状態から抜け出すのが草月作家の思想だと思います。
『聖ジュエル』2023 キタアカリ 私物の宝飾品
大きく影響を受けています。草月流では、珍しい素材に頼るのは安直な発想であると考えられています。目指すのは、ありふれたものでありながら、その人の手にかかると味わいを醸し出すもの。例えば、僕がチップスターをいけるのは、原料が芋という植物であり、日本中のどんな町のスーパーでも手に入る商品だからです。ありふれた物に、ほんの少し造形を加えるだけで、元の認識より大きく乖離でき人の印象に残り続ける。そこが、草月の思想につながるポイントです。
上:『チップスター』チップスターのりしお 2022
下:『アップル通信』キササゲ 青リンゴ 2024
全国のお花の生産者を訪れることです。各地の生産者さんとお話をすると、出荷規格に合わず市場へ出荷されない植物の存在や、廃棄問題を知ることがあります。そういった植物を少し分けてもらい、洋服を染めてアパレルグッズを作るのも僕の好きな活動の一部です。とはいえ、廃棄される植物を使うことで、SDGsや環境問題についてあれこれ言いたいわけではありません。生産者がブランドを守っていくために、ロスが出るのは当たり前のことなので。お花屋さんとして、捨てられるお花も、出荷されるお花も同様の生命として愛でて、自分が着たい服を作るというコンセプトで取り組んでいます。次はスミレ(パンジー)染めの洋服をつくる予定です。
ジュリアンが制作した農園アームカバー
いけばなを自分なりに解釈・研究して勘違いをしアップデートしていくか。誰からも頼まれていないのに「僕がやるんだ!」と軽いナルシズムでやり続けることです。草月流が1950年代から季刊で発行している『草月』という雑誌を集めているのですが、当時のいけばなって、今見ても前衛的で写真も美しくて惹かれます。草月の家元・勅使河原蒼風のインタビューも自虐的で面白いですし、物の言い方や世間に対するスタンスにシンパシーを感じます。先人の考えを知り、草月が築いてきたものを踏まえた上で、自分なりの魔改造いけばなを考えていこうと思っています。
『仏手柑』仏手柑 胡蝶蘭 photo by TOKI 2022
今考えているのはコアラパンですね。この作品のそもそもの始まりは、僕が主催している「秘密の洋菓子会」というイベントに持って行くために、静岡の霧深い山奥にあるパン屋さんで販売されているワニの形をした「ワニパン」を注文したことでした。その後、ずうずうしく厨房に入ってワニパンの作り方を教えていただくようになり、最近はそれをベースにコアラ型のパン作りに励んでいます。コアラをモチーフに選んだ理由は、コアラを嫌いな人はあまり聞いたことがありませんし、2024年10月にコアラが来日して40周年を迎えたので、ちょうどいいタイミングだと思ったからです。
上:『ワニパン』小麦粉 2023
下:秘密の洋菓子会
実家の母ちゃんをレンコンに転写し、きゅうりで結界を張ったものです。タイトルは「レンコンマザー」です。レンコンには多数の穴が空いており、正月のおせちでは「風通し、将来の見通しが良くなるように」という願いが込められています。僕の母ちゃんは体調が芳しくなく、2階の自室にこもる時間が増えました。いわばこのレンコンは実家で、2連目に母ちゃんが住んでおり、家の風通しを良くし、また疫病から護るべく、ハートのきゅうりで結界を張りました。きゅうり封じとは、歴史が古く1200年前に弘法大師空海が中国からもたらした厄除けの秘法で、病魔、悪鬼をきゅうりに閉じ込めるドラゴンボールでいう魔封波みたいなものです。このおかげで今ではすっかり母ちゃんが元気になり1人で旅行にいけるまでになりました。本当によかった。皆さんも冷蔵庫のきゅうりで試してみてください。
『レンコンマザー』きゅうり レンコン ラインストーン 2024
昔から、百貨店は「ハレの日」の場であると言われてきましたが、GRAND PATIO に来館される方も、ハッピーな気分でいらっしゃる方が多いと思います。エントランスを抜けて「今から買い物をするぞ」と早足になる方もいれば、地下で買い物をたくさんして、「今日のごはん楽しみだね」と笑顔を交わし合うご家族もいるでしょう。そういう空間で、あまり難しい作品を投げかけたくないと思いながら展示のプランを考えています。お子さんもたくさんいらっしゃると思うので、レンコンとコアラでポップさやキャッチーさも重視したいところです。それでいてちょっと引っかかるような展示を目指したいです。がんばります!
闇花屋/FLOWER PUSHER
いけばな草月流師範。鹿児島県立樹木女学院を首席で卒業。
好きな飲み物はファイブミニ。
自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されてた「Reborn-Art Festival 2017」アシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されている「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。