Artist:
HOTARU
TACHI

展示場所:
本館1F GRAND PATIO

展示期間:
2024年9月1日〜
11月30日

コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、「負の浄化」をコンセプトに彫刻のような自作の額縁と絵画を組み合わせた作品を手がける城蛍さん。負の感情に目を向けた創作活動を行う理由や、作品作りのインスピレーション源などについてお聞きします。

60°

『大きい水』2024年

60°
ART

『大きい水』2024年

Artist:
HOTARU TACHI

展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2024年9月1日〜
11月30日

コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、「負の浄化」をコンセプトに彫刻のような自作の額縁と絵画を組み合わせた作品を手がける城蛍さん。負の感情に目を向けた創作活動を行う理由や、作品作りのインスピレーション源などについてお聞きします。

―幼少期から風景画を描くのが好きで、高校では油絵を専攻されていた城さん。現在のアーティスト活動の原体験や幼少期の思い出について教えてください。

小さい頃から人より絵が描ける子どもではありましたね。5歳くらいの時に参加した動物園の写生大会では、お尻をピンク色に塗ったシマウマの絵を描いてコンクールで入選しました。あと最近、実家で小学2年生の頃の自由帳が出てきたんですけど、人気アニメのキャラクターが凶器を持っている絵など、私自身が見ても衝撃的で変な絵がたくさん描かれていてびっくりしました。昔から目の前にあるものをそのまま描くのではなく、自分のなかで変化させたり、感情的な部分を絵に投影したりするのを無意識にしていたのかもしれません。

―城さんの作品のコンセプトは「負の浄化」だそうですね。暗い、怖い、毒がある……といったネガティブな要素に目を向けて作品作りをしているのはなぜですか?

そもそもどんな人にも負の部分はあって、そこから気を逸らしてみたり、外側から見えないようにしてみたりっていう表面的な対処はできるかもしれないけど、どう頑張っても完全になくすことはできないと思っているんです。
だから、負の部分を消し去ろうとするのではなくて、作品を通して誰かからの共感や理解、肯定を得ることで、救いになるんじゃないかと。そして、その共感や理解、肯定こそが「負の浄化」になると思って制作をしています。

『老人と海Ⅱ』2019年

『老人と海Ⅱ』2019年

―どんなものからインスピレーションを受けますか?

普段から気になった風景を写真に撮ったり、気になった言葉を書き留めたりしていて、そのなかからモチーフを抽出しています。ネガティブな感情や負の要素が先行するというよりは、気になった風景や言葉が持つ情報からネガティブなものが引き出される感じですね。あるいは、私自身がネガティブなものに目を留めやすいタイプなのかもしれません。

『甘い香りに誘われて』2023年

『甘い香りに誘われて』2023年

―作品のなかに動物や植物がよく登場するのはなぜですか?

動物や植物って人が勝手につけた意味がありますよね。たとえば、ある地域では蛇は死、蝶は死者の象徴とされていて、植物にも1つひとつ花言葉がある。意味をつけたということは、人間がそこに何かしらの救いを求め、願いや祈りを込めたんだと思うんです。そういう「負の要素に対して、人間が勝手に救いを求めて意味をつけた存在」として動植物のモチーフを作品に使うことが多いです。

『私の父は感情表現が苦手な人だった。いつか祖母が亡くなった時、病室で横たわっている彼女を前にして、彼は彼の母の両頬にキスをして「おつかれさま。」とつぶやいた。それは、私が今まで見てきた中で最も美しくも虚しい愛情表現だった。私には時折その光景を思い出して泣いてしまう時間がある。』2024年

『私の父は感情表現が苦手な人だった。いつか祖母が亡くなった時、病室で横たわっている彼女を前にして、彼は彼の母の両頬にキスをして「おつかれさま。」とつぶやいた。それは、私が今まで見てきた中で最も美しくも虚しい愛情表現だった。私には時折その光景を思い出して泣いてしまう時間がある。』2024年

―城さんの作品は、モチーフを通した三人称の視点で描かれます。ご自身がネガティブなものに目を向けやすいタイプであれば、ダイレクトに自分自身の「負」にまつわる表現をすることもできる気もしますが、一人称視点ではなく、「第三者の光景」として表現するのはなぜですか?

他人に置き換えることで、負の感情を客観的かつ冷静に判断でき、落ち着いた作品にすることができるからです。「負の感情―第三者―私―作品」というように、モチーフとなる第三者と作品の間に私がいて、「第三者の視点」と「私自身」という2つのフィルターを通して負の感情を濾過しているイメージですね。
先ほど「感情的な部分を絵に投影しやすい」とお話ししましたが、一方で生々しい感情が前に出すぎてしまうとそれは浄化したとは言えないんじゃないかとも思っていて。だから、負を負として分かりやすく描くのではなく、最終的には浄化したものとして作品に落とし込みたいと考えています。

『夜の緑の下』2021年

『夜の緑の下』2021年

―負の感情を生々しく描かないために、制作のうえでの決めごとやポリシーはありますか?

扱っているモチーフそのものが、毒があり癖の強いものが多いので、黒は使わずに淡い絵具を使って、モチーフの強さを和らげるようにしています。あとは、「絵画」として制作することも大事にしていますね。私の作品には自作の額縁をつけたものもあるのですが、作品を立体として作ると手触りやテクスチャーが前面に出てしまい、実在している感じが強くなってしまう。つまり、生々しさが際立ってしまう気がして。だからこそ私のなかでは、どんな作品もあくまで「絵画である」という意識を持ちながら制作をしています。

『転がる岩、君に朝が降る』 個展 デフォルマシオンの庭 展示風景 2021年

上:『転がる岩、君に朝が降る』2024年 下:個展 デフォルマシオンの庭 展示風景 2021年

―城さんにとって額縁はどんな存在ですか?

そもそも額縁と絵を別個のものとして作っている意識はあまりなくて。私の作る額縁は、絵画が変形して、外側に向かって飛び出しているようなイメージです。特に最近の作品は、いわゆる額縁のかたちをしているのではなく、「絵から生えているちょっと奇形のもの」という感じですね。近年の個展では、鑑賞者に屈んだり、回り込んだりして、作品をいろんな角度から鑑賞してほしいと思い、額縁や絵の裏も含めた制作を行いました。

『うっとうしい虫』2020年

『うっとうしい虫』2020年

―回り込んで見る立体感や裏まであるような奥行きは、ともすれば城さんが避けてきた「生々しさ」につながりませんか?

そこは本当に私個人の感覚でバランスを取っていますね。「これはちょっと生々しくて気持ち悪すぎるからダメ」「これはセーフ」っていう基準が、うまく言語化できないのですが私のなかにあるんです。たとえば、作品全体の要素が多くて説明的すぎると気持ち悪いと感じてしまいます。また、額縁の材料も、石膏やガラスなどいろんな素材に手を出しすぎるとグロテスクになりやすいので、なるべく木材に統一するとか。「浄化」という意味でもできるだけすっきりした状態を目指しています。

―GRAND PATIOではどんな作品を展示しますか?

小説などから集めた言葉を作品のモチーフにすることが多いのですが、GRAND PATIOにもたくさんの本が置かれているので、言葉をもとにした作品を展示したいなと考えています。また、1人の「第三者の光景」を1つの作品に落とし込むことがほとんどですが、今回は1つの作品のなかにいろんな視点や光景を詰め込んだものも作れたらと思っています。現在制作中なので、まだ具体的にどうなるかは分かりませんがぜひご期待ください。
GRAND PATIOは、普段あまりアートに触れない方も多く訪れる場所だと思うので、そういう方々の目に私の作品が触れるだけですごく嬉しいですね。通り過ぎながらくらいでいいので、とにかく見てもらいたいです。みなさんがどんな反応をしてくださるか楽しみにしています。

Hotaru Tachi

Artist

城蛍
Hotaru Tachi


1996年愛知県生まれ。2019年より東京都内にて活動。個展に、2020年「淡く目映く」(Gallery Camellia、東京)、2020年「あじさいと沐浴」(MAKII MASARU FINE ARTS、東京)、2021年「海に食べられる」(MAKII MASARU FINE ARTS、東京)、2021年「デフォルマシオンの庭」(長亭ギャラリー、東京)、2023年「食卓にて孕む」(biscuit gallery karuizawa、長野)、2024年「ハローグッドバイ」(OIL by 美術手帖、東京)。主なグループ展に、2021年「SLANGS」(WHAT CAFE、東京)、2021年「”Ampersand”旧图像世的挽歌」(東京画廊+BTAP、北京)、2022年「ART TAICHUNG」(333GALLERY、台湾)、2024年「Uncarved Block, Unbleached Silk」(Meeting Point Projects 集合点、ロンドン)など。
負を抱えること、違和感を持ち続けること。私の考えでは、それは物体に無理をさせ、歪みを生じさせます。だからこそ、結果として絵画は大きく変形し、半立体の奇形へと変態します。しかし、私は、そこに優しさ、静けさ、穏やかさといった装いを与えることで、負の光景に安らぎをもたらします。そうすることによって、否定されがちな負という存在を、私たちは肯定することができるのかもしれません。


高須咲恵

Art Curation

高須咲恵
SAKIE TAKASU


自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されてた「Reborn-Art Festival 2017」アシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されている「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。

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