展示場所:
本館1F GRAND PATIO
展示期間:
2024年3月1日〜
5月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、油彩やステイニングという技法で日常の風景を切り取る、アーティストの小林知世さん。現在の作風が生まれたきっかけやインスピレーションの源についてお聞きします。
momo 2022
momo 2022
展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2024年3月1日〜
5月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、油彩やステイニングという技法で日常の風景を切り取る、アーティストの小林知世さん。現在の作風が生まれたきっかけやインスピレーションの源についてお聞きします。
物心ついた頃から、絵を描くのが大好きでした。絵以外でも、粘土でものをつくったり、刺繍をしたり、手を動かすこと自体を楽しんでいた記憶があります。手を動かしながら日々の出来事を自分の中で整理しているところもあり、創作は私の生活に根ざしていました。大学を卒業するまで、筆から離れたことは一瞬もありませんでしたね。その後、アートを仕事にすることに迷う時期もありましたが、2018年夏にポートランドのアーティスト・イン・レジデンスに参加し、いろんな人たちと出会う中で、アーティストとして生きていく決意が固まっていきました。
untitled 2023
untitled 2023
現地では、アーティストとして出迎えられたことがうれしかった反面、英語をうまく話すことのできない自分に対するもどかしさがありました。滞在先だったチャイナタウンのホテル周辺を朝晩散歩することを日課にしていたところ、夜間に壁に描かれたグラフィティが、昼間になると壁の持ち主や清掃者に塗りつぶされることに気づいたのです。何度消されても描き、何度描かれても消す……この淡々とした不思議な往復が、一枚の壁を通して互いが見えないコミュニケーションをしているようで翌日の壁を期待していました。このように日常に潜む微細な変化や違和感をインスピレーションにして表現することは今でも多いですね。
book 2023
そうですね、毎日見ているものだからこそ、普段との違いに気づきやすいと感じます。特に食べ物は、「冷める」「溶ける」「腐敗する」などの時間による変化も興味深いですね。他にも、歩いているときにふいに冷たい風を感じたり、知らない人の家の窓から夜ご飯の匂いが漂ってきたり……そういう“自分じゃないものの気配”を感じるときに、感覚のスイッチが切り替わって作品をつくることが多いです。モノを含む他者というものへの、「予感」や「気配」が私の創作のテーマかもしれません。
Photo by the artist
ステイニングは、下塗りを施さないキャンバスに絵の具を滲ませたり染み込ませたりして描画する技法です。私は綿布をキャンバスとして使用していますが、重力や画材が乾燥する過程が仕上がりに影響するため、コントロールできない部分が大きいことに愛しさをもっています。また、目を凝らさないと見えない、透明な層が重なっているようなタッチの残り方にも、自分の知覚のあり様に近いものを感じていますね。
untitled 2023
untitled 2023
これは地元である北海道を出るまで意識していなかったのですが、冬の間の北海道は、わずかな光であっても眩しく感じることがあります。その個人的な記憶が、白やグレーの色使いにつながっているような気がします。例えば、雪は白色のイメージが強いですが、時間帯によっては他の色を吸収したり反射したりして、全く違う見え方をすることがあって。作品では、そのような目に止まらないような世界も捉えていきたいと考えています。
untitled 2021
2023年に上野の森美術館で行った「VOCA 2023」という展示で発表した作品です。久しぶりに大きなサイズに取り組んだ同作では、ステイニングと油彩、2つの手法で描いた絵を並べて提示しました。筆致をある程度キャンバスに残すことのできる油彩と、先ほどお話したステイニングは対照的な特徴を持ちますが、同時進行で描き進めることで、作家の身体感覚としてとてもユニークな体験になりました。完成した作品も「2枚の絵が相互にコミュニケーションを取っているようだ」と新鮮な反応をいただきましたね。ステイニングと油彩を並行する表現形態は、これからもその可能性を模索していきたいと思っています。
drawing 2023
メインで展示するのは、認知症の祖母がデイサービスで描いてきた絵を、私が1カ月ほどかけて模写した作品です。祖母は、私と同様にもともと絵を描くことが大好きな人なのですが、認知症になってから少しずつ時間や空間の捉え方が変わってきているように感じています。祖母の描いた線をなぞっていくことで、次第に私と彼女の世界が混じり、新しい絵が立ち上がっていった過程をご覧いただけたらと思います。また、札幌の自宅近所の川沿いを、毎日散歩しながら収集した「音」をモチーフにした絵画作品も展示予定です。こちらもぜひ楽しみにしていてください。
untitled 2021
untitled 2023
1994札幌生まれ 東北芸術工科大学美術科卒業
油彩やステイニングの技法で風景・日用品・食べ物などを白やグレーを基調とした淡い色彩で描き、環境音を判読不能の文字のようなドローイングで表現する。目に止まることのない光景や音のもつ気配や震えを捉える制作に取り組む。主な活動に2023 VOCA展(東京 上野の森美術館)、2023 個展 epiphany(札幌 CAI03)、2021 個展 doughnut(仙台 galleryTURNAROUND)、2020 個展 暗闇で手紙を読む(札幌 salon cojica)、2018 アーティストインレジデンス End Of Summer2018(アメリカ オレゴン州 ポートランド)など。
自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されてた「Reborn-Art Festival 2017」アシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されている「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。