ART

キュレーター高須咲恵さんが厳選したアートも
GRAND PATIOの魅力。
展示アーティストへの
インタビューをお届けします。

Artist Russell Maurice (会期:2020/10/7~12/25)

左/Hippopede 右/Space Rock
Artist Russell Maurice

-幼少期からグラフィティを描き始めたそうですが、アーティストとして活動を始めるに至った経緯を簡単に教えてください。

R そうですね、グラフィティに初めて出会ったのはSubway Art※1が、出版される前の1984年のクリスマスだったので9歳ごろでしょうか?まるで、それは初恋でした。グラフィティを見たその瞬間、興味を惹かれ、その夜家に帰ってから描き始めました。私の両親はクリエイティブで、いつも私に絵を描くことを勧めてくれていました。あれが私の始まりだったのだと思います。子供の頃描いたなぐり描きのモンスターの絵の後に初めて描いたのものがグラフィティでした。そして今再びモンスターを描くことに戻ってきていますね(笑)。やはりグラフィティは様々な形で私の人生を導いてくれています。私の漫画やアニメへの愛も、やはりグラフィティキャラクター(レタリングに注意を向ける為によく使われる)から来ています。グラフィティキャラクターがまるでコミック全体のストーリーを一つのフレームで伝えているかのような様が好きですね。

-イギリス生まれで、セントラルマーティンズで修士号を取られていますが何を専攻されていたのでしょうか?

R 私は1975年にニューキャッスルの自宅で生まれました。セントラルマーティンズではファインアートを勉強し、その後はグラフィックの業界で10年程働きました。

-イギリスでグラフィックデザイナーをされていたころも作品をつくられていたのでしょうか?それはどのような作品でしたか?

Haricot Magik (Magic Bean Series)
- edition 100 wheat pasted riso poster’s
all stuck in the street, Gasr 2003
R 私はグラフィック科在学時の1995年から制作(キャンバスとスクリーンプリント)し始めました。一番初めに描いたものはグラフィティの一種のようなものでしたが、当時90年代半ばでは、キャンバスに描かれたグラフィティに対して、かなり多くの批判が向けられていました。※2それから私は椅子(私の初めてのストリートスティッカーデザインでもあります)とテーブルとゴーストを描きました。そして1998年から、環境に関して深刻に懸念してかなり落ち込み、木や自然のものなど環境に配慮したエコテクノロジーで描き始めました。一種の理想郷のアイディアですね。その後に描いたのはゴーストと、絶滅した動物達のゴーストでした。

-その後、どのようにして日本での活動を始められたんでしょうか?

R 1993年にTシャツのブランドを立ち上げ、それ以来ずっとブランドの運営をし続けています。※3 2005年頃、Small Axeと呼ばれる東京の販売代理店との仕事を始め、そこでの担当者がMayukoでした。彼女は Small Axe を離れ、自らの会社「Make Art Your Zoo」を立ち上げ 、私達はそれ以来一緒に仕事をしています。友人含め、本当に多くの繋がりが、彼女と仕事をしていく中で生まれていきました。

-ファッションブランドとのコラボを多く手がけられていますが、ご自身にとってファションとアートに違いはありますか?

R そうですね、大きな違いがあると思います。私が思うに、ファッションは主として営利的なもので、アートは主として想像的なものです。アートとは、アイディア、想像を掻き立て、思考力を大いに刺激される示唆に富むもの、もしくは感情であり、感情であるべきです。もし、そのどれもがなければ、その作品はアートとは言えません。ですので私は、自分の活動のこれらの二つの側面を分け続けようとしています。Gasiusは運営しているブランドネームであり、私は決してこの名前でアート作品を作りません。ですが、これらの線引きは自分でも不鮮明で、重複する物事があったり、自分自身とコラボレーションをすることもよくあります。

  • A Poster In Miura That Had Worn Down To The Shape
    Of The Remains Of The Sticker Beneath
  • 上/Buried In His Own Dust
    下/My Sweet Nerve Ending

-立体作品に、キャラクターが多く見られますが、ご自身が影響を受けたキャラクター(もしくはアニメや漫画)などがあればお教えください。

R たくさんです、全てを挙げるには多すぎます。ですが、自分のスタイルを作るのに一番影響を受けたのは多くのグラフィティアーティストと同じようにVaughn Bodé でしょう。

-またなぜ作品にキャラクターが多く登場するのか教えて下さい。

R これについては先程も少し述べましたが、グラフィティが影響しています。そして、私はアニメーションに見られる、その形、その動き、その単純さ、いくつかの曲線と点によってストーリーを伝えることができる能力、そしてその即時性が、実に大好きなのです。特に古くて画質の荒い漫画やアニメに見られる色や雰囲気のものも好きです。アニメーションのスミアフレーム(Animation Smears※4)も作品に大きな影響を与えています。

  • Crying Dog
  • Atomic Worm

-自然の物をキャラクターに見立てるのは、日本的なアニミズムとも関係していますか?

R もちろんです。私は全てのものは一つであると信じていて、私達は皆同じ物質から作られているので、そこには繋がりがあってしかるべきです。もし私に魂があって私が塵から出来ているのならば、魂はどこから来たのでしょうか?

-またラッセルさんにとっての「自然」とはどのようなものでしょうか?ラッセルさんの自然観、そしてアートとの関係をおきかせいただければ幸いです。

R これは複雑なのですが、自然観というのは人工的に作られたものであるということです。なぜなら私たち自身が、そもそも自然物であり、すべての人によって作られた物もまた、自然によって作られたものであります。しかし、私にとっての自然は完全なものであり、絶え間ないインスピレーションの源であり、自然は既に全てを発明していて、その完全なシステムを人間の機械が破壊しているのです。人間は愚かで、盲目で、貪欲です。彼らはこの破綻しつつあるシステムによって地球を燃やすことを止めることができないのです。私は常に何らかの形で、この事について語っています。時にはさりげなく、時には大胆に。今のところは、昆虫、特に日本の昆虫達に夢中になっています。蛾や蝶とその幼虫はとてもクレイジーで大好きです。あとは蜂も大好きです。

-二子玉川の自然も気に入られたということでしたが、ラッセルさんにとってどのような場所に感じられましたか?

R 二子玉川の自然は落ち着きますね。落ち着くのはいいことです。

  • ※1 Martha CooperとHenry Chalfant著のNYにおけるグラフィティムーブメントを捉えた写真集で、グラフィティのバイブルとして知られている
  • ※2 現在ではグラフィティをモチーフにする作品は数多くあるが、当時はグラフィティが道端以外で描かれることは、ルールから外れセルアウトとして批判されることが多かった
  • ※3 同じ頃、東京ではNIGOのA BATHING APE や藤原ヒロシのGOODENOUGHが設立され裏原系文化がスタートしている
  • ※4 動きを示すアニメーションの一枚のフレームで、例えば走る5本の足や、3セットの飛び出る目などが描かれたもの
Russell Maurice
1975 年ロンドン生まれ。 ファッションブランド 「Gasius」 のディレクターとして活躍する傍、 近年はアーティストとしての活動に力を入れている。 Maurice の主な作風は、 抽象的なアニメや漫画の絵を描くこと、そしてセル画や紙媒 体からサンプリンリング素材をコラージュしたオブジェや平面作品を制作することであり、主な作品シリーズに、70 年代から 80 年代に生産された、作者不明のオブジェ 「泣く犬」 を再制作する作品シリーズ 「Crying Dog」 (2017) がある。
また彼が長い年月を経て集めた 「何かのアニメのワンシーンのセル画」 や 「いつかどこかの企業がキャンペーンに用いたキャラクター」 など、 日本の忘れられたキャラクター表現をアクリルボックスの中にレイヤーにしてコラージュする作品シリーズ 「Cel Works」 がある。ラッセルの表現とは、 2次元を3次元に、 そして記憶を現在に、 フィクションをノンフィクションに、 ヴィジュアルアーツと現実空間の境界線を横断する視覚言語としてコミック アブストラクション表現を実践している。
Art Curation 高須咲恵 SAKIE TAKASU
アーティスト、キュレーター。2011年東京藝術大学大学院美術教育研究室修了。街の中でおこなわれる表現「ストリートカルチャー」に関するリサーチや、展覧会の開催、作品制作をおこなう。主な展覧会に、2017年石巻市「Reborn-Art Festival」アシスタントキュレーターとして参加、2018年市原湖畔美術館「そとのあそび展」共同キュレーションなど。
ART TOP