展示場所:
本館1F GRAND PATIO
展示期間:
2024年6月1日〜
8月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、フリークライマーとしての独自の視点をアートに落とし込んだ写真や映像作品を手がける菊地良太さん。唯一無二の創作スタイルが確立された経緯や作品作りのインスピレーションの源についてお聞きします。
60°
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展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2024年6月1日〜
8月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、フリークライマーとしての独自の視点をアートに落とし込んだ写真や映像作品を手がける菊地良太さん。唯一無二の創作スタイルが確立された経緯や作品作りのインスピレーションの源についてお聞きします。
小学生の頃から絵を描くのが好きでした。小学2年生のときに少し病気をして入院していたのですが、あるテレビ番組で日比野克彦さん(現・東京藝術大学長)がいろいろな現代アーティストを紹介しているのを見て、子どもながらに「美術って、絵を描くことだけじゃないんだ」と大きな衝撃を受けたんです。これが今につながる、最初の記憶かもしれません。
いえ、初めはそうした意識はありませんでした。自然にできた穴や出っ張りを利用し、道具を使わず身体ひとつで登ることに、純粋にスポーツとしてのめり込んでいたんです。ただ、競技としてやっている頃から、脱線することも楽しんでいましたね。他のスポーツもそうですが、選手の動きや身体性そのものがかっこよかったり、面白かったりします。そうした部分はひとつの表現であり、アートにもなり得ると後に気づきました。
アメリカ,フエコタンクス 2008
私は回り道が多く、30歳手前で東京藝術大学の先端芸術表現科を受験したんです。2次選考にあるポートフォリオ審査の中で、今につながるアイデアを提出して合格しました。フリークライミングには、どういったルートで登るかを事前に下見する「オブザベーション」と呼ばれる要素がありますが、ポートフォリオでは、その視点を日常風景に持ち込むと一体どんなことが起こるかを表現しました。大学に入ってからは、都市風景や自然の一部に自分自身が介入し、そのパフォーマンスの様子を写真や映像に記録しながら手法を確立させていきました。
アメリカ,フエコタンクス 2008
面白いものにすぐ飛びつくというよりは、街中にある見慣れたものの中からどうしても気になる対象をじっくりと吟味してモチーフに決定することが多いです。そして、モチーフは必ずしも登れるものだけではありません。例えば、アーチ型の橋がかかるダイナミックな風景とハンモックに寝転ぶ自分とを並置した作品があります。遠近法を使って、大きな橋と小さな自分のサイズ感に「?」となる面白さですね。
「そとのあそび」市原湖畔美術館展示風景 2018
自分の代表作と捉えているのが「born#1」です。街灯の曲線的な形状が、女性の子宮のようでもあり、男性器が伸びているようでもあり……あるいは、ぶら下がった自分が生み落とされる赤子のように見えるかもしれません。タイトルにも呼応して、いつもの風景にいろんな意味が重なってくることに手応えがありました。
born#1
そんな風に鑑賞者に感じてもらえるようなロケーション選びでは、同時に、法律や撮影の許可申請といったルール面をいかにクリアするかが一つの課題です。大々的にイリーガルなことを行うような製作にはあまり関心がありません。どのようにすれば最終的にリスクを回避できるか、現実的な落とし所を探っていく過程を楽しんでいます。日常におけるルールって、実際の運用は曖昧なところも多く、グラデーションがあると思うんです。私の場合は、風景を通した創作に、現実のルールをどこまで適用できるかの境界線を模索しています。
sonkei_awashima
フリークライミングで壁やものを登りきったときって、ものすごい達成感があるんです。本当は、そういった感覚も鑑賞者と分かち合いたいのですが、私が感じたものをそのまま共有することは物理的に困難ですし、CGではなく実際に登っているということをあえて強調はしません。というのも、私は“人間の目”を信じているから。作品を見る人たちの様子を見ていると、ふと「あれ、これ本当に登っている……?」と気づく瞬間がよくあって、それがすごくエキサイティングなんです。現在はAI技術の進化がめざましいからこそ、生身の人間のフィジカルの価値が、逆説的に違和感となって浮上するのではないかとも期待しています。
過去の写真や映像作品とあわせて、大きな四角いボックスの周りを、足をつけず這うように移動する映像作品を思案中です。これまでは展示会や芸術祭など、能動的にアートを鑑賞しようとしている方に対して作品を見せることが大半でしたが、今回は商業施設での展示。普段はアートにあまり触れない方の日常に、自分の作品が入り込むと思うとワクワクします。ふらっとお買い物に来た方が作品と出くわすことで、小学2年生の私が入院中に現代アートと出会ったときのような衝撃を提供できたら光栄です。
1981年千葉県生まれ、同在住。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。フリークライマーとしての独特の視点を美術表現へと変換させ、都市や風景に内在する様々な領域や境界線を可視化させる作品を発表している。主な作品発表に、『そとのあそび~ピクニックからスケートボードまで~』展(市原湖畔美術館/2018年)、北アルプス国際芸術祭2020-2021(長野県大町市/2021年)、東京歌舞伎町タワー(2023年施工)のアートプロジェクトに参加。
自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されてた「Reborn-Art Festival 2017」アシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されている「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。