展示場所:
本館1F GRAND PATIO
展示期間:
2023年12月1日〜
2024年2月29日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは馬や植物をモチーフとした壁画や刺繍作品を制作するアーティストの田中尚子さん。これまで辿ってきた道筋や壁画に対する想いなどについてお聞きします。
Mural for “Spotlandia” November, 2023 in Mexico City
Mural for “Spotlandia”
November, 2023 in Mexico City
展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2023年12月1日〜
2024年2月29日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは馬や植物をモチーフとした壁画や刺繍作品を制作するアーティストの田中尚子さん。これまで辿ってきた道筋や壁画に対する想いなどについてお聞きします。
そうです、メキシコシティで壁画の歴史や文化に触れたことが大きいですね。メキシコと言えば女性画家のフリーダ・カーロのイメージが強いかと思いますが、実はその夫であるディエゴ・リベラも偉大なアーティストとして知られています。彼が中心となったメキシコ壁画運動の影響で、メキシコシティには今でも1920年代から1930年代に描かれた壁画が、市役所や学校も含めた公共空間にたくさん残されているんです。100年も描かれた価値ある壁画を、誰もがいつでも無料で見られること。そしてその壁画に込められた歴史や科学、民族としてのアイデンティティといった作者からの強いメッセージに対し、道ゆく鑑賞者が自由に感想を持っていいおおらかさに感銘を受けました。
Mural in Colegio de San Ildefonso
Mural by Diego Rivera, Mexico City
メキシコに暮らしていた頃は、ストリートアートに特化しているコマーシャルギャラリーの展示が毎週のようにあったので、壁画に取り組む作家仲間が増えていき、彼らから影響を受けました。また、街中を散歩していて新しい壁画と出くわすこともごく日常で、何度か見かけるうちにだんだんとサインがなくとも誰の作品か分かるようになるのが面白くて。そんな日々を送る中で、メキシコの生活に密着している壁画という手法が自分にとって身近なものになっていったんです。
Mural by Smithe, Mexico City 2017
Mural by Nelio, San Miguel de Allende 2017
6年ぶりに現地に2週間ほど滞在しましたが、改めてメキシコの人々と壁画の密接なつながりを感じました。たとえば、駐車場の案内やレストランの「今日のおすすめメニュー」が、壁に直接描かれているんです。壁を使って表現することが、誰にとっても日常で自然なこと。そんな自由な空気に触れて、かつて自分が壁画に感じた魅力を再確認できました。
Photo by the artist
Artist working on the mural, Mexico City 2023
真冬の屋外での制作は本当に寒かったですが、大使館のシェフがタコスを差し入れしてくださるなど、制作中にはやはり人とのコミュニケーションがありました。メキシコの領土である大使館は、ビザを取る日本人にとって最初に触れるメキシコになります。その空間に相応しい壁画として、メキシコと日本それぞれをイメージする要素を描きました。制作に時間をかけられた分、細かい描写にも挑戦できて思い出深い作品になっています。
Mural from the Embassy of Mexico in Tokyo, 2019
コロナ禍もあって、初めは家の中でもできる表現として刺繍を始めました。今はいろんな糸を使いつつ針の刺し方を変えることで、表面に出てくる糸の状態を変えられることに刺繍の面白さを感じています。一方陶芸は、平面表現である壁画とは違って、立体で考えるようになるため、これまで描いてきたモチーフをまた違う角度で見直す機会になっています。表現手法を多角的に探求する姿勢は、メキシコのアーティスト仲間から刺激を受けたものです。最初にメキシコで友人になった作家は、壁画、油絵、陶芸、デジタルアート……好奇心が向くまま手法にとらわれず創作し続けていました。私もその柔軟さを大事にしています。
Embroidery work, from “SOFT SPOT” 2023
Ceramic horse lamp from “SOFT SPOT” 2023
私がもっともパワーを感じる表現手法はやはり壁画ですが、それだけに選択肢を絞らずいろんな手法も経験してみて、他の手法で培ったことを壁画に還元するなど、創作活動そのものに良い影響を与えていきたいです。また、私にとって創作活動は海外の友人たちとのコミュニケーションでもあります。言葉では伝えられないような想いを、作品を通して発信し続けられたらと思います。「私は元気でいるよ」「変わらず作り続けているよ」と。
Installation view from “SOFT SPOT” 2023, at Pacifica Collectives
メキシコの壁を撮影した映像作品や、新たな立体作品も展示予定です。また、館内の柱に大きなパネルを付けて、私がメキシコで出合ってきたような壁画を空間芸術として表現したいと思っています。二子玉川はプライベートでもよく訪れているので、そんな親しみのある街で自分の作品が展示されることに本当にワクワクしているんです。作品には赤や白、緑を多く使うなどホリデーシーズンも意識しているため、ご友人やご家族と一緒にお楽しみいただけたらうれしいです。
Work in progress, artist’s studio 2023
幼少期を過ごしたカリフォルニアで⾝についた創作の楽しさや、学⽣時代を過ごしたメキシコシティで壁画の⽂化に触れたことをきっかけに、⾺や植物をモチーフとした壁画の制作を⾏っている。近年では刺繍や陶芸など、異なる⽂化の影響や独⾃の視点を融合させた様々な表現⽅法を模索する。在⽇メキシコ⼤使館や、⽇本橋BnA アートホテルにて壁画を制作する傍ら、2022年秋にインテリアブランドunicoとのコラボレーションアイテムの発表や、2023年にはPACIFICA COLLECTIVESで個展も⾏った。現在は東京を拠点に刺繍や壁画の制作を⾏っている。
@schokolein
自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されてた「Reborn-Art Festival 2017」アシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されている「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。