ART

キュレーター高須咲恵さんが厳選したアートも
GRAND PATIOの魅力。
展示アーティストへの
インタビューをお届けします。

Artist

KINJO

(会期:2021/9/1~2021/11/30)

Artist Russell Maurice

-スケーターでもあるKINJOさんが作家活動を始めたきっかけ、アーティストとしての原体験は何だったのでしょうか?

KINJO 父が絵を描いていた影響で、僕も幼い頃から絵を描く時間が好きでした。そして小学校にあがるぐらいの歳になったある日、父がスケートボードを買ってくれたんです。ドクロとナイフに蛇が巻きついている毒々しいデザインで、今思えば子供に与えるには若干奇抜ですよね。しかし当時の僕は、これを「かっこいい!」とひと目で気に入り、それからはダークヒーローや戦隊ものの悪役、蛇、クモといったものを描くようになりました。この頃の出来事が今の僕の原点ですね。

-KINJOさんの作品には蛇のモチーフが多く登場しますが、そういった体験が元になっていたのですね。

KINJO あとは、沖縄にいる祖父母がくれた米軍の払い下げ品の数々も、僕の中で表現のルーツとしてあります。それこそドクロや骸骨、ナイフ、ミリタリーをモチーフにしているものから、お菓子のパッケージなんかも日本とは全く違う。色使いや線が派手で分かりやすく、そのインパクトも今の僕の作風に影響しているのかもしれません。

-一見すると“悪”に見えるものに強く惹かれたのですね。どんなところがKINJOさんの琴線に触れたのでしょうか?

KINJO 例えばダークヒーローや悪役って、実は心の中で葛藤していたり言動に矛盾があったりして、それはすごく人間らしいなと好ましく思っていたんです。僕ら普通の人間も、何気なく生活していく中で葛藤や矛盾に出会いますよね。それでも自分の目指したい場所に向かっていくために、一歩ずつでも進んでいく。そんなところが幼心にかっこよく見えたんだと思います。

-“人の目”もKINJOさんの作品によく見られるモチーフですが、こちらはどんな体験が元になっているのですか?

KINJO 僕は小さい頃から、“人の目”をとても恐れていました。じいっとこちらを見てくる、視線が怖かったんです。ある時、「(絵の中で)人の目を克服しよう」と思って、その視線が分からなくなるぐらいに描いたり消したりを繰り返してぼかすことをしてみました。すると目の輪郭そのものがぼやけて、僕を萎縮させていた視線もやわらかくなって。それから、代表的なモチーフのひとつとしてよく描くようになったんです。面白いのが、見る人によって「この目は怒っているね」「なんだか悲しそうだ」と、目から受ける印象がばらばらなこと。ただ、視線を克服しようと思ってできた作品が、観賞する人によって異なる意味を新たに持つことがとても興味深いです。

-KINJOさんにとって、絵を描くことは自分の葛藤や恐怖に打ち勝つためのものでもあるのですね。

KINJO それももちろんありますし、あとは自分の中の情報を整理する手段でもあります。僕は荒川沿いで生まれ育って、今も川の近くに住まいとアトリエを設けています。あのあたりって都心とも郊外ともいえない、物理的にも概念的にも境界線上にあるエリアなんです。そういう場所に暮らすからこそ、日々の記憶や感情をしっかりと咀嚼し、作品としてアウトプットする。これは僕にとって呼吸と同じくらい自然で、必要な作業なんです。

-昨年の秋に初めての個展を開かれていましたが、KINJOさんにとって大きな出来事だったのでは?

KINJO そうですね。僕は、自分の作品を誰かに見せようと思ったことがありませんでした。キャプションもほとんどつけずに、Instagramにアップするだけ。でも、ご縁があって馬喰町にあるギャラリー「PARCEL」で、初めて個展という場を設けて作品を人に見てもらう機会に恵まれました。自分のために描くのとは違い、限られた展示スペースでどう魅せるか、作品どうしのバランスも考えなくてはならず大変でもありましたね。

-個展を含め、ご自身にとって大きな出来事があったときに意識されていることはありますか?

KINJO あるがまま、自然であることです。生きていると、周りの人や環境、そして自分自身、時には運や偶然なんかも重なって、大なり小なりいろんなことが変化していきますよね。初めからその変化を否定することはしないで、まずは一度受け入れて、流されてみる。「流される」と言うと聞こえが良くないかもしれませんが、大きな流れに逆らうよりも流されたほうがずっと楽しくて、自分では思いもよらなかった場所に連れていってもらえることだってあります。個展がまさにそうでした。作品を作りながら僕が考えていたこととは、まったく遠いところにある感想や解釈に出会えた。それらにインスピレーションを受けて、また僕は新しい作品を作れます。

-まずは流されてみるというのは、素敵な考え方ですね。流されたほうが、遠くまで泳いでいける。

KINJO 僕自身が荒川の近くで暮らしているから、流れというものに敏感なのかもしれません。二子玉川もリバーサイドで、洗練された雰囲気のある街ですよね。ここにも、「季節」や「流行」といった流れがある。自分には乗れない、乗りたくないと思っている流れにも少し体を預けてみると、新しい景色が見えてくるかもしれませんね。

-今回の「GRAND PATIO」での展示ではどのような作品が登場するのでしょう?

KINJO 大きいペイント作品を2点、小さめのペイント作品を1点お見せしようと考えています。加えて、僕のこれまでの作品を切り取って組み合わせた大きなパッチワーク作品を制作中です。“人の目”をモチーフにし、「GRAND PATIO」に訪れる幅広い年代の方の目に留まる、アートに触れてもらうきっかけになるといいなと思っています。また、僕としては初挑戦となる立体作品も完成間近。こちらもぜひ楽しんでもらえればと思います。

KINJO

ペインター/スケートボーダー
沖縄にルーツを持ち、日本と関わりの深いアメリカ文化を題材に絵画やパフォーマンスを発表している。「暗闇に光る目」「シリアルパッケージ」「蛇」などの記号を、“描いて”は“消す”をくり返す作業のなかでアウトラインが薄ぼけ曖昧となり、作家自身のポートレイトのように愛嬌のある姿で「個人的な存在」に変容する。それはKINJOにとっての自画像のようなものであり、自身のルーツを掘り下げていく行為でもある。近年の活動にOkinawa North-End Pop Uppers(やんばるアートフェスティバル)2021/1 個展「ARAKAWA GARDENER」(OIL by 美術手帖、東京)2020/11、個展「UNDER THE BRIDGE」(PARCEL、東京)2020/9。

Art Curation 高須咲恵 SAKIE TAKASU
アーティスト、キュレーター。2011年東京藝術大学大学院美術教育研究室修了。街の中でおこなわれる表現「ストリートカルチャー」に関するリサーチや、展覧会の開催、作品制作をおこなう。主な展覧会に、2017年石巻市「Reborn-Art Festival」アシスタントキュレーターとして参加、2018年市原湖畔美術館「そとのあそび展」共同キュレーションなど。
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