日本橋高島屋にまつわる面白いモノやコトを発信するWEBマガジン「デパートロジー」
2023年の1・3・5月号は、開店90年を記念したスペシャルバージョンでおとどけします!
更新日:2023/3/20
呉服や美術織物の製作を通して、古くから美術作家とのつながりが深い高島屋。1909年(明治42年)に創設された美術部は、自主企画の新作展を軸に活動を続け、日本の美術界にも大きく貢献してきました。3月21日(火・祝)まで、銅版画家・入江明日香氏による日本橋高島屋開店90年記念作品の大型バナーが本館1階正面ホールで展示中ですが、この作品も、作家と高島屋との絆を象徴するものの一つでしょう。今回は、歴史ある高島屋美術部の「今」の取り組みをご紹介します。
銅版画をコラージュし水彩などで着色する独自の手法で注目を集める銅版画家、入江明日香氏に制作いただいた日本橋高島屋開店90年記念作品『櫻始開(さくらはじめてひらく)』。日本橋高島屋開業日である3月20日の誕生日色“古代紫”をメインカラーに、凛とした表情の女性と、高島屋をはじめとする新旧の日本橋の街並みが描かれた作品です。その制作の想いを、入江氏に伺いました。
▲『櫻始開(さくらはじめてひらく)』。3月21日(火・祝)まで、本館1階正面ホールで大型バナー展示中
「日本橋は東京の中心であり、高島屋さんのような老舗の多い街。新しい施設もたくさん生まれていますが、伝統を守りながら発展していて、伝統と新しさがバランスよく融合した街というイメージがあります。
今回は、そんな新旧の変化を感じられるように、写真製版という銅版画の技法を使い、高島屋の本館と新館を融合。開店90年をお祝いする想いを込め、春らしい“桜”でその建物を覆いました。パリでよく目にする、外壁が花で覆われた建物も発想源になっています。
建築をこれほど大きく扱う作品は初めてで、桜とのバランスにも苦心しました。背景には、新旧の日本橋を描いていますが、昔の風景は浮世絵がヒントになっています。在りし日の日本橋に思いを馳せながらご覧いただけたら嬉しいです」
▲高島屋の建築写真から製版した銅版画(本館)
▲高島屋の建築写真から製版した銅版画(新館)
▲アトリエで制作中の入江氏
人物画を得意とする入江氏らしく、画面中央には女性が描かれています。「サングラスのつるに“90thAnniversary”という文字を入れたり、ピアスをバラのロゴにしたりと、高島屋さんゆかりのモチーフを潜ませています。右上のタイトル文字の背景にも“祝”の文字が入っていたり、高島屋さんのお買物袋を持った動物たちがいたりと、細部まで開店90年をお祝いする気持ちを描き込みました」
そんな細かい部分までじっくり鑑賞できるのが、本館6階美術画廊で行われる個展「入江明日香展」です。日本橋高島屋では初の新作個展となる今回は、下描きだけで1年以上を要した六曲一隻の龍の作品をはじめ、約20点を展示。入江氏の独創的な世界に浸ってみませんか。
▲『牡丹華(ぼたんはなさく)』2022年
▲『菖蒲華(あやめはなさく)』2022年
入江明日香 銅版画家
1980年東京都生まれ。2004年、多摩美術大学大学院博士前期課程を経て、2012~13年に文化庁新進芸術家海外研修員としてフランスに滞在。2018年には初の大規模回顧展を横浜高島屋・京都高島屋で開き、2022年に福岡アジア美術館で大規模個展を開催。版画やコラージュ絵画など多彩な技法を駆使して描き出す、想像力豊かな独自の世界観が注目を集めている。
▲『不撓不屈~揺るぎなき忠誠~』2022年
▲『慈(めぐみ)の関~惻隠の情~』2022年
▲『夢のあと~奥州道中にて~』2022年
3月15日(水)からは、入江氏と高麗屋三代が演じる歌舞伎の演目「勧進帳」とのコラボレーションビジュアルがウインドーで展示されます。こちらの作品の制作では、高麗屋三代の演技の迫力をいかにして伝えるかに心を砕いたという入江氏。
「勧進帳を繰り返し鑑賞したり、お衣装の色や文様の意味を調べたりしましたが、多くの発見がありました。動きの少ないポーズの弁慶を描くのが特に難しく、真っ黒な衣装で画面が重くならないよう、色のバランスにも苦心しました。ウインドーでは背景とのコンビネーションを、個展では原画の迫力を楽しんでいただきたいです」
高島屋の始まりは呉服店ですから、歌舞伎俳優とは公私にわたり関わりがあったと思われます。ご紹介の彩りも鮮やかなポスターは、大正期に大阪心斎橋店で開催の「俳優好衣裳陳列会」で掲げられた「矢の根五郎」。当時、高島屋と関係が深かった日本画家・北野恒富に原画を頼んだものです。当時、人気俳優と言えば歌舞伎役者であったことから、催しも多くのお客様から人気を集めたことでしょう。
▲左:高島屋呉服店ポスター(矢の根五郎)(原画:北野恒富)。「矢の根」は歌舞伎十八番の演目のひとつで、矢の根五郎は歌舞伎「矢の根」の主人公、曽我五郎。
右上:「俳優好衣裳陳列会」会場。〝大入口〟と表示された入場口では役者に見たてたマネキンがお出迎え。会場内には陳列された衣裳が見える。右下:「矢の根」のポスターが掲げられ、階上の催し場へと入場を誘う。(画像提供:高島屋史料館)
創設以来一貫して“自主企画による、存命中の作家の新作発表”を続ける高島屋美術部。バブル崩壊で多くの百貨店美術館が閉館し、企画を外部委託する百貨店も多いなか、ここ日本橋高島屋では年間約140本もの自主企画展が開催されています。美術部マーチャンダイザーの河村さんは「日本橋店は高島屋の旗艦店であり、美術界の中心である東京から発信できる場としても重要な位置付け」だと言います。今回は、河村さんのほか、高島屋美術部日本橋店で絵画を担当する平岡さん、工芸を担当する渡邊さんに、美術部の「今」と「今後」について聞きました。
美術部を運営していく上で、最も大切なのが、作家へのリスペクトと信頼関係。「私たちが対象とするのは、モノではなく、美術作家という“人間”。信頼関係を構築しないと、いい企画展はできないのです。そこが最も大変で、やりがいのある部分でもあります」と平岡さん。ともに過ごす中で、プライベートの相談にも乗ったりしながら作家の人生に寄り添い、売れ筋の作品よりも作家が表現したいものを重視して展覧会の方針を決めていくのだそう。「作家とともに歩み、成長していきたいという姿勢があればこそ、高島屋美術部はここまで存続して来られたのだと思います」。
2021年、高島屋創業190周年企画として開かれた「悉皆 -風の時代の継承者たち-」展は、長年に渡り築いてきた作家との関係性を象徴する展覧会といえるでしょう。今泉今右衛門、束芋、森村泰昌など錚々たる美術作家29名が、高島屋史料館収蔵作品から発想した新作を発表。同時に並ぶことのほぼない作家が一堂に介した展示として、美術界にも大きな反響を呼びました。
▲岩田壮平《Amaryllis》(月刊美術2013年10月号掲載)世界的に活躍する千住博氏ともつながりの深い岩田氏。10月に日本橋美術画廊で個展が予定されています。
▲絹谷香菜子《瞳に潜む想い -Shoebill-》2020年に日本橋と大阪高島屋で開催された個展が評判に。
正統派の日本画や洋画から、工芸や現代美術、華道や茶道具まで、幅広いジャンルの展示があるのも百貨店画廊の楽しさ。週替りで展示が替わるので、新企画のための情報収集は不可欠なのだそう。ギャラリーや美術館に足を運んだり、美術部内で情報交換したりするほか、作家から有望な仲間や後輩を紹介されることも多いといいます。
近年は、伝統工芸の手法を用いて現代的な表現を行う工芸作家も積極的に紹介。今年の注目は、四代田辺竹雲斎氏の7月の展覧会です。伝統的な竹工芸作品から、竹を用いた壮大なインスタレーションまで幅広い作風を持つ田辺氏。「美術画廊」「美術画廊X」「美術工芸サロン」すべてを使った展示によって、その多彩な世界を体感できます。
さらに将来へ向けて、次世代を担う作家の発掘にも注力。その取り組みの一つがグループ展『美の予感』です。各店の美術担当が40歳以下の美術作家を推薦し、意見を出し合って作る展覧会で、ここから個展に発展する作家も多いそう。
2階に設置された「アートアベニュー」も、気軽にアート鑑賞できる場として好評ですが、この3月からは、日本橋店独自の新しい試みが始動。若手メンバーが企画する小さな展覧会スペースが「美術工芸サロン」横に生まれます。
長きに渡る伝統を受け継ぎながら、今の空気を取り込んで、ジャンルもテイストも多彩に進化する「高島屋のアート」。これからの展開にも、ぜひご注目を!
▲四代田辺竹雲斎《Connection -無限-/京都国立博物館》。7月20日からの日本橋高島屋の個展では、1階正面ホールでも竹のインスタレーションを制作予定(Photo by:Tadayuki Minamoto)
▲3月初旬に開催された「美の予感2023-生彩-」より(5/3以降、京都・名古屋・大阪の高島屋で巡回)。上から、西久松友花《蓮花》、アイザワリエ《Dallol》
▲展示は6日間。毎週新しい展示に出合えます。A画廊とB画廊があり、間の可動壁を外して1スペースとすることも。
▲こちらの展示も6日間が中心。反響が大きい作家は「美術画廊」へステップアップすることも多いそう。
▲約3週ごとに展示替えが行われます。
▲展示は約6週ごと。さくら通り側階段前の通路と「サロン ル シック」前にあり、展示作品は購入も可能です。
日本橋高島屋でのアート鑑賞と合わせて立ち寄っていただきたいのが本館2階「ギャラリー ル シック」。「ライフスタイルデザインショップ」をコンセプトに、ファッションや暮らしにこだわる本物志向の大人にふさわしい30以上のブランドを国内外からセレクトしたショップです。老舗ブランドのバッグや革小物から、洗練されたコスメやフレグランス、スピーカーや充電池などのガジェットまで、五感を楽しませるアート性豊かなものが揃います。
こちらの商品いずれかをお買上げいただくと、先着で「おすすめスイーツ」をプレゼント!
詳しくはCONTENTS.3にある「sweets♥eats」をご覧ください。
菓子職人がつくり出す美しいお菓子があれば、お茶の時間もアートな気分に。今のおすすめは、華やかな春のお菓子です。各和菓子店に並ぶ春の情景を表した生菓子は、意匠や味わい、菓銘も風情豊か。季節の移ろいを表現する新しい洋菓子も見逃せません。お店ごとの個性を楽しみながら、多彩な生菓子を気軽に購入できるのも百貨店ならではです。
読者お買上げプレゼント
3月20日(月)→4月19日(水)の期間中、「DEPARTOLOGY(デパートロジー)」のWEBページをご提示のうえ、CONTENTS.2でご紹介した商品(同じブランドなら掲載商品以外と合算可)を税込5,000円以上お買上げのお客様、先着100名様に『sweets♥eats』でご紹介したブランドのスイーツ(1種類)と引き換えができるチケットをさしあげます。
※お買上げ1回につき1枚プレゼント引換券をさしあげます。※プレゼントは1組様につき1点限りとさせていただきます。※期間を過ぎた場合はご利用いただけません。※引換券1枚につき〈HIBIKA〉小型の生ケーキ1点、〈鶴屋吉信〉京観世(2個袋入)、〈巖邑堂〉巌千鳥3枚・どらやき1つと交換できます。※入荷数は数に限りがございます。売切れの際はご容赦ください。