麗澤中学・高等学校教諭/SDGs研究会顧問 瀧村尚也さんの柏ライフ
1700を超える市区町村。その一つ、柏。
この街には、教室を飛び出し、地域や社会を学びの舞台に変える教諭がいる。
麗澤中学・高等学校の教諭で、SDGs研究会顧問を務める瀧村尚也さんだ。
教諭を志す一方、一杯のコーヒーに魅了され、バリスタや店舗経営も経験。別々に見えた二つの夢は、社会を動かす挑戦へと変わっていった。
フェアトレードコーヒーを通じて生徒、企業、地域、そして他校へと広がる、新しい学びのかたち。その原点と、柏から描く教育の未来とは。
コーヒーが広げる教育の未来

瀧村 尚也(たきむら なおや)さん PROFILE
1995年12月21日生まれ。
麗澤中学・高等学校 教諭。千葉県松戸市出身、柏市育ち。
法政大学在学中にコーヒーブランドを立ちあげ、カフェを開業。大学卒業と同時に事業を離れ、2018年に教員へ転身する。現在は社会科の教員として教鞭を執るほか、探究推進チームリーダー、SDGs研究会の顧問を務める。自身の多様な経験を生徒たちに示しながら、日常の疑問を探究へとつなげ、仲間とともに社会課題へ挑戦できる教育環境づくりに力を注ぐ。
教員とコーヒー、二つの夢

瀧村さんが最初に抱いた夢は、教員になること。中学生の頃、ただ勉強を強いるのではなく、最後まで向き合いながら「何がやりたいんだ?」と問い続けてくれた恩師の生き方に憧れたからだ。
ところが高校生のとき、夢へと続く道に新たな分岐が生まれる。ある珈琲店で味わった一杯に心を奪われ、自ら面接を申し込み、働き始めた。その後、別のカフェで出会ったバリスタから技術を学び、若手を対象としたバリスタの大会ではベスト8に進出。しかし、その結果を手にしても、なぜか思ったほどの喜びはなかったという。
コーヒーが次々と縁を結び、大学在学中には自身のブランドを立ちあげ、店舗を開業するまでに至る。賞を得ることよりも、コーヒーを通じて生まれる出会いや、その先の物語に心を惹かれている——瀧村さんは、次第にそう気づいていった。
教員とコーヒー。二つの夢は、このときまだ、異なるゴールへ向かう道のように見えていた。
二つの夢が、一つの挑戦に

コーヒーに情熱を注ぐなか、瀧村さんはコーヒー生産地が抱える貧困などの社会課題や気候変動によってコーヒーの栽培適地が減少するとされる「2050年問題」を知る。遠い世界の社会課題が、コーヒーを通すことで一気に自分事となった。
一杯の裏側で奮闘する人々の存在を知りながらも、これほど大きな問題に、一人のバリスタとして立ち向かうことには限界がある。そこで浮かんだのが、もう一つの夢である教育だった。
コーヒー店の経営を独学で身につけた経験から、学校には興味を仕事や人生設計へつなげる機会が足りないと感じていた。生徒が多様な生き方に触れ、将来を考えられる環境をつくりたい——教員という夢は、ついに確かな輪郭を持った。
別々に見えていた二つの夢は、社会の課題に向き合う、という一つの挑戦へと重なっていった。
新たな一歩を踏み出す舞台に選んだのは、麗澤中学・高等学校。「国際社会に貢献する人材を育てる」という教育理念と、面接でコーヒーへの思いを熱く語った自分を認めてくれたことが、就職の決め手になった。
生徒の問いから始まった取り組み

教員1年目、英語の教科書で、小児がんの子どもを支援するレモネードスタンドの活動を知った生徒との出会いが転機となる。「自分にもできるかもしれない」という相談を受け、麗澤中学・高等学校創立70周年記念式典でレモネードスタンドによる募金活動をすると、11万円の支援が集まった。
しかし、材料費を差し引くため、募金額の全額を寄付できないことに生徒は疑問を抱く。

その問いに応えたのが、瀧村さんの経験だった。生徒にハンドドリップを教え、生産者に適正な対価を支払って生活や労働環境の改善を支える「フェアトレード」によって入手した豆で作ったコーヒーを販売。その利益でレモネードの費用を賄い、募金額の全額を寄付できる仕組みを提案した。
1人の生徒との出会いによって、瀧村さんの挑戦はついに動き出した。
柏の街を、学びの舞台に

その後、レモネードスタンドとコーヒー販売を柱とする有志団体「EARTH」の活動は校内へ広がり、2020年には部活動「SDGs研究会」へと歩みを進めた。
「SDGs研究会」は、活動資金を販売収益から生み出し、新たな商品の企画や販売、収支の管理までを生徒たち自身が担う。卒業生のなかには外部コーチとして各プロジェクトを支えるものもいる。また、コーヒーの袋詰めは就労支援事業所へ依頼し、障がいのある人の継続的な仕事づくりにもつなげている。
こうした社会との関わりを通じて、生徒たちは視野を広げ、進路や将来像を具体的にしていく。
瀧村さんが目指すのは、まず社会に飛び込み、実践から学ぶ教育だ。その舞台となるのが柏の街。都心に近い一方で自然も身近にあり、多様な人や企業、文化と出会える柏は、生徒にとって「リアルな教室」になる。
SDGs研究会の活動は、地域とともに歩む持続可能なものへと育っている。
コーヒーと教育がつなぐ、未来の教室

地域とのつながりを大きく広げたのが、柏高島屋の「TSUNAGU ACTION」での協働プロジェクトだ。柏高島屋のバイヤーと生徒がチームを組み、約1年間にわたって商品開発に取り組んだ。企業や地域の人々と関わるなかで、生徒たちは一つの商品に多くの人が携わっていることを知り、その生き方や仕事への思いに触れていった。
SDGs研究会の取り組みは、麗澤中学・高等学校だけにとどまらない。仕組みやノウハウを共有し、必要な機材も無償で提供することで、他校へ広がっている。
学校は、生徒が最も安全に失敗できる場所であってほしい。瀧村さんの次なる目標は、一部の学校だけで行われる「特別な教育」を、社会の当たり前にすることだ。

一杯のコーヒーから始まった物語は、かつて瀧村さんを未知の世界へ導いたように、今、生徒たちの可能性を社会へと広げているのかもしれない。
未来につながる取り組みを、地域の皆様とともに
柏高島屋は、地域の皆様とのつながりを大切にしながら、次世代を担う若い世代の挑戦を応援しています。麗澤中学・高等学校SDGs研究会の皆様とは、「TSUNAGU ACTION」を通じて、地球と人に寄り添う商品開発や販売に取り組み、社会課題や地域とのつながりについて共に学びました。これからも柏高島屋は、地域の皆様とともに、未来につながる様々な活動を続けて参ります。
千葉県松戸市出身。高校時代に柏で青春を過ごす。大学進学と共に、都内で8年過ごした後2017年に柏へ転居。Koskimaa Designを立ちあげ、柏を中心に様々なウェブサイトやデザインを手がける。全国初のエリア型商店会、【ウラカシ百年会】では事務局長を務め、同会の発行する雑誌PICKUPの執筆などライターとしても活動。
次回の記事更新は11月24日(火)を予定しております。
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