展示場所:
本館1F GRAND PATIO
展示期間:
2026年3月1日〜
6月30日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、日本の伝統技法である「型染め」を軸に制作を行う、型染作家/染色家の宮入圭太さん。にじみや歪みといった偶然性を積極的に受け入れながら、思わず立ち止まってしまう独自の作品を生み出しています。アーティストとして活動を始めるまでの経緯や、制作の根底にある「無作為」という考え方についてお聞きします。
UYIJ
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展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2026年3月1日〜
6月30日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、日本の伝統技法である「型染め」を軸に制作を行う、型染作家/染色家の宮入圭太さん。にじみや歪みといった偶然性を積極的に受け入れながら、思わず立ち止まってしまう独自の作品を生み出しています。アーティストとして活動を始めるまでの経緯や、制作の根底にある「無作為」という考え方についてお聞きします。
誰かに何かを習ったわけではなく、遊びの延長で始めました。ものづくりは得意だったので、10代後半から自然と手を動かしていたんです。当時は周りの友だちもみんなアマチュアで、表現でお金を稼いでいる人はほとんどいませんでした。20代になると、その中から仕事にしていく人たちが少しずつ現れて、僕は粘土をやっていた流れで、ソフビ人形の原型を作る「原型師」という仕事に就くことができました。今のように作家名が前面に出るわけではなく、完全な職人仕事です。最初に手がけたのは、永井豪さんの『マジンガーZ』のソフビ人形でした。
食器職人が日常的に使う粘土で原型を制作したトリケラトプスのソフビ。副業として作られたことによる、雑さや無作為さが良いという
僕が原型師を始めた当初は「(高さ)1センチ1万円」と言われるような世界でした。ただ、香港返還の頃を境に生産拠点が中国へ移り、状況は一変しました。単価は一気に下がり、そこに3Dプリンターが登場して、仕事が急速になくなっていったんです。僕も、その流れの中で廃業することにしました。そもそも、僕が手がけていたロボットのソフビは、左右対称で、寸分の狂いも許されない世界です。資料通り、設計通りに、きっちり仕上げることが求められる。でも、僕自身は、そういう感覚があまり好きではありませんでした。今振り返ると、そうした違和感やズレが、最初から自分の中にあったんだと思います。
子どもの頃から長野に行く機会が多く、型染めの「のれん」を目にすると、なぜか懐かしい気持ちになっていました。後になって、それが「民藝」に属するものだと知り、40歳くらいの頃に東京・駒場にある日本民藝館を訪れたんです。そこで柚木沙弥郎先生の染布を見て、「これは一体なんだろう」と強く惹かれました。すごいとか、上手いとかいう言葉では説明できない力があった。そこから古本屋を回って本を集め、独学で型染めを始めました。
写真:月森俊文(日本民藝館職員)
道具を揃えるのが大変でしたが、やってみたいという気持ちだけで続けました。ちょうどInstagramが流行り始めた頃で、制作したものを投稿していたら出版社から声がかかり、本のカバーを手がけることもありましたね。ただ、僕自身はそうした仕事を続けたいというより、工人として仕事をしてみたかった。そこで日本民藝協会に入り、民藝の世界に身を置こうとしたんです。そんなとき、米カリフォルニアのアーティスト、タイラー・オムスビーくんから、Instagramで「それは何という技法なんだ」と声をかけられました。作品を交換する約束をして、誘われて訪れたのが、六本木のギャラリーペロタン東京で行われていたバリー・マッギーさんの個展です。当時、タイラーくんはバリーさんのアシスタントをしていたんですね。そして、バリーさんの個展会場に僕の型染めを飾ってもらったことをきっかけに、民藝の文脈とは異なる、アート寄りの人たちとつながっていきました。2022年にはユニクロの『LifeWear magazine』の表紙も手がけました。
型染めの工程は、大きく分けて7つあります。①図案を描く、②図案をもとに型紙を彫る、③紗(目の細かい絹やナイロン製のメッシュ状の布)を張り、布の上に型紙を置いて染色しない部分に糊を塗る、④にじみ止めを施し染める、⑤乾かす、⑥水で洗い糊を落とす、⑦下から模様が浮かび上がり、乾燥させて完成。こうした工程をいくつも重ねていく中で、人の手ではコントロールできない部分が出てくる。そこで生まれる独特のにじみや歪みが、型染めならではの表情だと思っています。型紙も同じで、使えば使うほど角が取れていく。僕はあえて粗目の紙を使いますし、布も、目がきっちり詰まったものは選びません。
糊の上から刷毛を使って色を乗せていく
草木染めは「他力性」が面白いんです。同じ植物でも、媒染剤をアルミ、鉄、銅と変えるだけで、まったく違う色になって個体差が生まれます。それでいて、決して悪い色にはならない。正直、植物を煮出したり、下準備に手間がかかったりするので、辞めていた時期もありました。でも、改めて取り組んでみたら、「やっぱりこれは間違いないな」「自然に返すって、こういうことなのかな」と感じました。思い通りにならない部分も含めて、自然に委ねる感覚が、今の自分にはしっくりきています。
染めるたびに色味が変わるのであまり参考にはならないが、草木染めの色見本として使っている
最も影響を受けたのは、柳宗悦が仏法を通して美を語った『美の法門』という本です。美しいものを目にしたとき、人は浄土とつながる。「美しいものを作ろう」と意識するよりも、「自(おの)ずから生み出す」を大切にする。こうした思想に出会えたことが、自分の生き方を大きく変えたと思っています。現在の活動は、民藝の中心文脈からは離れていますが、民藝美論や仏教美学といった考え方は、自分の創作の土台としてずっと生き続けています。
型染めをはじめてすぐに制作した美の法門の型染め
そうですね。人はどうしても、「評価されたい」とか「すごいことをやりたい」と企んでしまう。でも、そう考え始めると、だんだん苦しくなっていくんです。柳の本には、「『はからい』から美はうまれない」とはっきり書かれていて、その言葉がすとんと腑に落ちました。とはいえ、作家である以上、完全な無作為は無理でありますから。できるだけはからいなく、たくらみなく、「直感」「思索」「製作」を繰り返し仕事したいと思っています。
自然に出るにじみや傷が手作業の面白さ。「これは失敗しちゃった作品だけどね」と宮入さん
自由だからだと思います。不思議で、生き生きしていて、思わず笑ってしまうようなほがらかさ。無作為のものには、そういう魅力があると思っています。民藝館にある型染めの作品も、近くで見ると糊が残っていたり、にじみや傷があったり、きれいとは言えない部分があります。でも、それがすごくいい。無作為で、欲のないもの。その中に宿る面白さや美しさを、ずっと追いかけているんだと思います。
GRAND PATIOを訪れた方に「何これ?」と思っていただけたら本望です。僕自身も、初めて型染めを見たときはそうでした。何なのかよくわからないけど、なぜか目が離せない。その違和感とか引っかかりを、そのまま持ち帰ってもらえたらいいと思っています。
1974年生まれ 東京都出身
人形原型師を経て柳宗悦の民藝思想に影響を受け、独学で型染を学ぶ。
トラディショナルな型染作品からコンテンポラリーなアイテムまでを製作。
海外のアーティストとの親交も深く、数多くのコラボレーション作品なども制作している。
UNIQLO「life wear magazine」の特集・表紙、「民藝-美は暮らしの中にある」展のメインビジュアルを担当。
自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されていた「Reborn-Art Festival 2017」ではアシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されていた「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。