展示場所:
本館1F GRAND PATIO
展示期間:
2026年7月1日〜10月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、写真家の池野詩織さん。GRAND PATIOでは、祖父母が暮らした佐渡島の家を主題にしたシリーズを展示します。これまでは「新しく出会うものへの好奇心」で写真を撮っていたという池野さんが、幼い頃から慣れ親しんだ佐渡島を撮影することへの思いについて、お話を伺いました。
Seagull, Sadokisen (2021)
Seagull, Sadokisen (2021)
展示場所:本館1F GRAND PATIO
展示期間:2026年7月1日〜
10月31日
コーディネーター高須咲恵さんが、毎回1人の国内外の注目アーティストをピックアップし、そのアーティストへのインタビューとともに作品を紹介する企画です。今回登場するのは、写真家の池野詩織さん。GRAND PATIOでは、祖父母が暮らした佐渡島の家を主題にしたシリーズを展示します。これまでは「新しく出会うものへの好奇心」で写真を撮っていたという池野さんが、幼い頃から慣れ親しんだ佐渡島を撮影することへの思いについて、お話を伺いました。
大学生の頃、友達と一緒にフィルムカメラを買いに行ったのが最初でした。それまでも普通のデジカメで記録として写真は撮っていたんですけど、フィルムで撮るようになってから、Tumblr(*1)やウェブサイトで発表するようになったんです。
写真は、最初は本当に遊びの延長でした。友達同士でなんでもない写真を撮って、お互いに見せ合って。大学に入ってすぐ、19歳くらいの頃ですね。当時はフィルムカメラもすごく安くて、ジャンク品で500円くらいでも良いものが買えたりしたので、好きな写真家が使っている機材を調べたり、レンズを探したりしながら、どんどん写真に夢中になっていきました。
*1 Tumblr(タンブラー)
2007年にサービスを開始したブログ型SNS。2010年前後、高画質な画像を美しく配置できる独自のレイアウトや、他人の投稿を引用・拡散する「リブログ」機能が支持され、独自のユースカルチャーや美意識を創出。世界中の若い写真家やアーティストが作品を発表し交流する一大プラットフォームとなった。
左:Miri (2014)
右:June Satoko Ancco (2015)
写真だけじゃなくて、音楽や、自分で何かを作っている周りの人たちにもすごく影響を受けていましたが、当時は、サンディ・キム(*2)やパトリック・ツァイ(*3)のような、恋人や身近な存在を撮ったドキュメンタリー的なスナップ写真に夢中でした。パトちゃん(パトリック・ツァイ)が、当時の恋人と中国で暮らしながら撮った写真シリーズをFlickerに載せていて、恋人と別れる瞬間まで撮っているのを見てドキドキして。リアルタイムで更新されていく写真を見るのがすごく刺激的で、「自分もこういうことをやりたい」と思っていた時期でした。自分の世代って、インターネットを通して世界を知る感覚が今よりもっと手探りで新鮮だったと思います。海外の人とネット上で知り合って、手紙を送り合ったりもしていました。
*2 サンディ・キム(Sandy Kim)
アメリカを拠点に活動する写真家・アーティスト。ドラッグ、セックス、ライブシーンなど、アンダーグラウンドな若者たちの生態を地続きの視点からドキュメントした作品で頭角を現す。ファッション誌からアート界までをクロスオーバーし、2010年代のリアル・ドキュメンタリー写真のアイコンとなった。
*3 パトリック・ツァイ(Patrick Tsai)
台湾系アメリカ人の写真家・イラストレーター。2006〜07年、拠点を中国に移し、写真家Madi Juと結成した「My Little Dead Dick」で、お互いの恋愛関係をインターネット上にリアルタイムで露出していく日記的アプローチを試み、黎明期のWebアートシーンに衝撃を与えた。現在は東京を拠点に活動。
最初から「写真じゃなきゃだめだった」という感覚ではなかったんです。もともと何かを作ることは好きで、かなり頻繁にZINEを作ってアートブックフェアに参加したりしていたんですけど、その中で写真がいちばん早く、人に見せられる表現だった。感覚的にできるツールとして、自然に写真が中心になっていった感じでした。
自分が「写真家です」と言い始めた日も、すごくはっきり覚えていて。2012年のアートブックフェアで、初対面の人に「何してる方なんですか?」って聞かれることが多かったんです。その時、説明するのが面倒になって、「写真やってます」って言ったらすごく楽だった。その日から写真家って名乗り始めました。
しかもその日に、「写真やってるなら、アシスタントやらない?」って声をかけてもらって。自分だけが勝手に自信を持てていなかったんだなと思いました。
大学などで専門的に勉強したわけではなかったんですが、在学中から少しずつ撮影の仕事もいただいていて、その延長で自然に今に繋がっている感じがあります。
今振り返ると、「よくこれでやらせてもらってたな」と思うこともあるんですけど、周りに面白がってくれる大人の方たちがいたんですよね。本当にいろんな経験をさせてもらいました。
左:”BOMB COOLER” collaboration with Julian David (2013)
右:摩天楼 (2014)
好奇心で動いている感じがあります。自分にとっての写真って、世の中を知りたいっていう気持ちから始まってるんですよね。人に会いたいとか、その人をもっと知りたいとか、「なんでこれが面白いんだろう」っていう感覚とか。赤ちゃんの状態で、純粋に世の中に向き合ってる感じです。撮っている瞬間は、あまり頭で考えていないんです。本当に「メモする」みたいに撮っていて。あとから見返した時に、「自分はこういうものを見ていたんだ」って理解する感じに近いです。
同じ景色を見ていても、見えている人と見えていない人がいると思うんです。でも写真って、「自分にはこう見えていた」ということを伝えられる。自分にとって表現は、見てくれる人ありきのもので、根底には共有したいという原始的な気持ちがあります。
左:White flower, Black car (2023)
右:Stoned Princess (2024)
祖父母が佐渡の家に住んでいたのですが、コロナ前後に入院などでそこに住めなくなってしまったんです。ずっとそこにあると思っていた家が、なくなるかもしれないと思った時、久しぶりに佐渡へ行って、家を整えたり、お墓を移したりする中で記録を始めました。
最初は作品にするつもりではなかったんです。でも気づいたら、ものすごくたくさん撮っていて。小さい頃から見慣れていて退屈な風景だったはずなのに、不思議とすごく新鮮に感じられたんです。
そこから、自分が今なぜ佐渡に強く惹かれるのか確かめるために、一人でいろんな季節に通うようになりました。今回の展示では、その家族や風景を中心にしたシリーズを発表します。
今までは、新しく出会うものへの好奇心と瞬発力で写真を撮っていた部分が大きかったんですけど、佐渡では、じっくり自分の昔の記憶に出会い直している感覚があるんです。自分のルーツを掘り下げているような。
祖父に会いに行くために、東京から祖母を連れて移動して、病院では窓越しにしか会えない、みたいな時期もあって。単純に、記録として残しておかなければならないという気持ちもありました。
左:The House Symbol (2021)
右:In the Sea (2021)
すぐ発表しなくてもいいんだ、と思えるようになったかもしれません。もっと長い時間をかけて撮っていってもいいんだって。
佐渡の作品も、「こう受け取ってほしい」というより、見る人それぞれが自分の記憶と重ねながら見てもらえるようなものだと思っています。
佐渡って、自分にとってすごく懐かしい場所なのに、同時に新しい場所でもあるんです。それぞれの中にあるそういった感覚を呼び覚ますような作品になっていると思います。
Empty House (2021)
最近2年ぶりに佐渡へ行ったんですけど、今までは家族や家のことを中心に見ていたのが、その外側にある、自分の知らない佐渡に興味が湧いてきていて。特に最近は、自分をきっかけに島外から佐渡に来てくれる人もたくさんいて。新しく出会う人や風景が、これからどんな風に写真になっていくのかとてもわくわくしています。
あと今は、東京と京都の2拠点で生活しながら佐渡にも通っていて。これからも、自分なりのやり方で、いろんな場所を移動しながら生きていきたい気持ちがあります。
東京じゃないと仕事ができない、みたいな前提を、自分の中で少しずつ崩していきたいんです。でも同時に、東京でいろんな人と関わりながら仕事をすることもすごく好きで。その両方を持ちながら、自分に合った形を探していきたいと思っています。
1991年生まれ。2012年より写真家として活動を開始。
コマーシャルワークと並行して、展示の開催や作品集の発表など、東京を拠点に国内外で精力的に活動している。
2022年LAの出版レーベルDEAD BEAT CLUBより『SADO』を出版。2023年にはスタジオ35分にて佐渡を題材にした写真展『ぬかるみの記憶』を発表。
2025年2月、エースホテル京都のレジデンス制作を経て写真展『Spring Fever』を発表し、京都と東京の2拠点での活動を開始した。
Instagram: @ikenoshiori
自身がアーティストやキュレータなど様々な立場で活動している背景から、企画から制作まで多様なプロセスをアーティストと共にし、「空間と人と作品の関係」を模索。リサーチベースのプロジェクトにも数多く参加し、特に都市における公共空間で複数の実験的なプロジェクトを展開。アートユニット「SIDE CORE」の一員として活動する他、宮城県石巻市で開催されていた「Reborn-Art Festival 2017」ではアシスタントキュレータとして参加、沖縄県大宜見村で開催されていた「Yanbaru Art Festival」内では廃墟での会場構成を行うなど多くのプロジェクトに携わっている。