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ていねいに美しく暮らす北欧デザイン展

Beauty in the Home

北欧の有機的で美しいデザインには暮らしや思想が強く影響しています。北欧では19世紀末から「美が人生を豊かにする」という考え方が浸透し、現在の北欧社会の豊かさにつながりました。
本展では、椅子研究家の織田憲嗣(のりつぐ)氏が収集、研究してきた家具や日用品をもとに会場を5つの章に分けて構成。約8,000点に及ぶ所蔵品から厳選した約400点を展示する、織田コレクションの全貌に迫る初の展覧会です。
北欧のデザイナー総勢70名以上による作品を展示し、ハンス J・ウェグナー、タピオ・ヴィルカラなど巨匠10名については特集してご紹介。また、現地で暮らす人々の日常生活の映像もご覧いただきます。北欧のデザインがもたらす力に改めて気づくことのできる展覧会です。

織田憲嗣氏のプロフィールはこちら

ていねいに美しく暮らす

(c) Kentauros Yasunaga

プロローグ

どうして北欧に惹かれるんだろう

持続可能性やイノベーション、ジェンダー平等や多様性を認める社会など、現代社会でもっとも重要とされる考え方で先を行く北欧。
なぜ、これらの目標を北欧諸国では高いレベルで実現しているのでしょうか。
一見関係がないようにも見える北欧のデザイン、ここに大きなヒントが隠されています。
北欧デザインの有機的で美しい姿の内側には、 独特の暮らしや思想が埋め込まれているのです。
本展では、デザインに見られる北欧の思想を紐解きながら、なぜ北欧社会が豊かだと評されるのかを浮き彫りにしていきます。
いずれも高いレベルで循環する、北欧の「デザイン」と「暮らし」と「社会」の関係から、これからの未来へ繋がる、私たちの暮らし方のヒントを探ります。
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(c) Kentauros Yasunaga

美しいことは良いことだ

スウェーデンの社会思想家、エレン・ケイは19 世紀末に『Beauty in the Home(住まいの中の美)』という冊子の中で「美が人生を豊かにする」という思想を提唱し、それが北欧諸国に伝播し、さまざまな分野に影響を与えていきます。『もっと素敵な日用品を』(1919)と唱えたグレゴール・パウルソンがその声をさらに大きくしました。また英国でウイリアム・モリスの起こした「アーツ・アンド・クラフツ運動」と同様に、北欧でも工業化に抗い手工業を重要視するとともに、生活と芸術の一致を掲げました。
ものづくりは使い手、生活や社会の環境を意識して行われ、「美しい」ことを良しとして、美しさが暮らしや人に良い影響を与え、その人たちが良い社会を作るという考えが浸透していったのです。
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エントランスでは色とりどりの鳥たちがお出迎えします

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オイバ・トイッカ《ルイクリ》2008年

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第1章

椅子と生きる~Chairs for life~

北欧の人々は、長い人生を共にする椅子の存在をとても大切にしています。この章では、1,350脚を超える織田コレクションより、選りすぐりの北欧デザインを代表する名作椅子を展示します。個性豊かな形状の裏側には、徹底した座り心地が考えられています。
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デンマーク
フリッツ・ヘニングセン/モーエンス・ラッセン/オーレ・ヴァンシャー/グレーテ・ヤルク/ほか
スウェーデン
カール・マルムステン/エリック・グンナール・アスプルンド/インゲ・エクストローム/マッツ・テセリウス/ほか
フィンランド
イルマリ・タピオヴァーラ/ウルヨ・クッカプロ/エーロ・アールニオ
ノルウェー
アルフ・スチューレ/シグード・レッセル/インゲマール・レリング/ピーター・オプスヴィック/ほか

コージーコーナー

「コージー」は心地よいという意味で、「コージーコーナー」は自分だけのくつろげる場所のこと。
パーソナルチェア+小テーブル+照明器具の組み合わせを、会場内に複数箇所設置します。
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(c) Kentauros Yasunaga

第2章

デザインの源泉~Design beginnings~

この章では、北欧各国を代表するデザイナーごとに作品を紹介し、その特徴や美意識の違いを見ながら、北欧らしいデザインの共通点である、シンプルな中にあるどこか有機的なあたたかさ、「オーガニックデザイン」と評される特徴を感じていただけたらと思います。この様な特徴がデザインに現れるのは、男女平等社会である北欧では、デザイナーも日々の家事をこなす生活者である面が大きいのかもしれません。
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ハンス J・ウェグナー《ピーコックチェア》1947年

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タピオ・ヴィルカラ《ボーレ》1967年

(c) Kentauros Yasunaga

  • アルネ・ヤコブセン(デンマーク 1902-1981)
  • フィン・ユール(デンマーク 1912-1989)
  • ハンス J・ウェグナー(デンマーク 1914-2007)
  • ヘニング・コッペル(デンマーク 1918-1981)
  • イェンス・クイストゴー(デンマーク 1919-2008)
  • ポール・ケアホルム(デンマーク 1929-1980)
  • アルヴァ・アアルト(フィンランド 1898-1976)
  • カイ・フランク(フィンランド 1911-1989)
  • タピオ・ヴィルカラ(フィンランド 1915-1985)
  • ティモ・サルパネヴァ(フィンランド 1926-2006)

第3章

心の居場所~Where the heart is~

緯度が高い北欧の夏は、陽がゆるやかに沈むため長い夕暮れ(ブルーアワー)が訪れます。必然的に家で過ごす時間が長く、ゆっくりと家族で過ごす時間をとても大切にしています。友人を家に招くことも日常的です。お気に入りの自分の椅子に座り、美しいものに囲まれながら、家族や気の置けない友人との心安らぐ時間。そんな心のよりどころとして、北欧の人たちは家を自分の作品のようにとても大切に育てています。
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(c) Kentauros Yasunaga

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デンマーク

  • コーア・クリント
  • イブ・コフォド=ラーセン
  • ボーエ・モーエンセン ほか

スウェーデン

  • ヨーゼフ・フランク
  • ブルーノ・マットソン

ノルウェー

  • ベント・ヴィンゲ

第4章

美しい同居人~Handsome housewares~

「日常生活の中に機能性を備えた美を求めることこそ究極の贅沢だ」(グレゴール・パウルソン)
美しさが良い社会を生むという思想と、工業化が進む中でも手工芸品が守られた北欧では、生活の中に優れたデザインのマス・プロダクションと手工芸品が共存。デザイナーが工業製品のデザインと工芸品の制作の両方を手がけた例も見られ、アートピースもたくさん生まれました。この章では北欧が生んだ一級品のプロダクトやアートピースをデザイナーごとに紹介します。
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ビルゲル・カイピアイネン《プレート》1960年代

(c) Kentauros Yasunaga

ニールズ・レフスガード《ジェネレーション》1967年

(c) Kentauros Yasunaga

デンマーク

  • アーノルド・クロー
  • アクセル・サルト
  • ゲートルード・ヴァセゴー
  • ニルス・トーソン
  • ニールズ・レフスガード
  • グレーテ・メイヤー
  • カイ・ボイスン ほか

フィンランド

  • オイバ・トイッカ
  • ルート・ブリュック
  • ビルゲル・カイピアイネン
  • アンニッキ・ホヴィサーリ
  • ライヤ・ウオシッキネン

スウェーデン

  • インゲボリ・ルンディーン
  • ニルス・ランドベリ
  • グンナル・ニールンド
  • スティグ・リンドベリ
  • リサ・ラーション ほか

第5章

ていねいに暮らす~Living mindfully~

ここまで4章にわたり、形を持ったデザインから、北欧の人たちの暮らし方や考え方を見てきました。最終章では、北欧に暮らす人たちの日常生活をクローズアップし、実際にどんな暮らしを送っているのかを映像でお伝えします。ここに登場する皆さんはごく普通の一般人です。決して華美でなく、自分の美意識に正直に、丁寧に暮らす北欧の人々の姿は、とても満ち足りているように見えます。そこには、静かだけれど強い意志、自分だけのスタイルがあり、「自分のリズムで生きている」ように思えます。そんな、暮らし方に対する自分なりの答えを持っていることが、高い幸福度に関係しているのかもしれません。あなたは、暮らしにどんなスタイルを持っていますか?

「A Day in the Life in Scandinavia 夏のゴットランド島と冬のコペンハーゲン」
ダイジェストムービー
(c) Maya Matsuura

エピローグ

つづく、まわる、北欧の社会

本来「デザイン」とは、美しい形のことだけでなく、暮らしや社会を整えるための大小様々な活動そのものを含んでいます。北欧のデザイナーたちはただ単に良い家具やうつわをデザインすることを目標にしていたのではなく、良いデザインによってより良い暮らしを作ろうとしてきました。北欧は世界中で最も、本来の意味での「デザイン」が広く定着した社会だと言えるでしょう。
120 余年前にエレン・ケイの冊子『Beauty in the Home(住まいの中の美)』の中で掲げられた「美が人生を豊かにする」という思想は北欧全体へと染み渡り、美しく暮らすためにものが生まれ、美しいデザインに囲まれてまた暮らしが豊かになる、、、という素晴らしい循環が誕生します。それはやがて「国(=Home)も同じ」という思想へと発展し、結果、皆で支え合う美しい暮らし方「福祉国家」という理念を当然と受け入れ、現在の高度な循環型社会へと、流れるように舵を取っていったのです。

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(c) Kentauros Yasunaga