The theme of "BOOK SELECTION"
みなで地球環境について考えよう

本館1F GRAND PATIO ブックディレクター 幅 允孝さんへのインタビュー

ブックディレクター幅 允孝さんによる本館1F GRAND PATIOのライブラリーは、ご自身のお薦めに加え、
インタビューワークを通じた多面的な選書が魅力です。新しい本や言葉との出会いをお楽しみいただく前に、
今回のテーマ「みなで地球環境について考えよう」についてのエピソードも交えたインタビューをお届けします。

幅さんの選んだ書籍は
2021年4月7日〜8月31日の期間、
本館1F GRAND PATIOでご覧いただけます。

−今回の大テーマは「みなで地球環境について考えよう」でした。

 環境問題は以前から言われ続けていましたが、いよいよ喫緊の課題になってきました。現実に、世界中で山火事や洪水など異常気象が多発していて、「何かがおかしい」と感じている人も多いのではないでしょうか。
回帰不能を表す言葉に「ポイント・オブ・ノー・リターン」という言葉があります。つまり、どんな方法をとっても引き返すことのできない地点のことですね。地球にとって、それがもう目前に迫っているように感じています。

−1つ目の小テーマ「地球の現在地」では、今の地球環境を正しく認識するための本が選書されていました。まずはどの本から入るのがよいでしょう?

 ニュースで「SDGs」という言葉をよく聞くけれど、どういう意味なのかわからない。そんな人は『小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発』からスタートするといいと思います。
著者のひとり、環境学者のヨハン・ロックストロームは、SDGsの元となる考え方を作った人。環境問題を考えるにあたっての基本的なことが書かれているのですが、最初にある「重大な10のメッセージ」という写真付きのエッセイがわかりやすいんです。たとえば、カメルーンのコブラの毒が新しい心臓治療薬の開発に役立っていることを通して、「今は使えないと思っている資源でも、未来には何かに使える可能性がある。だからこそ人間社会と自然は共存していくべきだ」というメッセージを投げかけてくれます。

−経済学の観点から環境問題について書かれた本もありました。

 『人新世の「資本論」』は近年読んだ中でも一番パンチがありました。著者は大阪市立大学准教授の斎藤幸平さん。今個人的に最も注目している、1987年生まれの若き経済思想家です。
冒頭は「SDGsは『大衆のアヘン』である!」となかなか過激な言葉から始まります。SDGsが経済成長を目指している以上、環境破壊は終わらないと指摘しているんですね。斎藤さんは、エコロジーに取り組んできた晩年のマルクスが残した草稿などを研究することで、資本主義というシステムに限界があることを論じていきます。そして、環境破壊を食い止めるには「脱成長」を目指すべきだと訴えます。
この本が特によいのは、脱成長の具体例として、「コモン(水や土地など生活に必要なものを共有財産にする)」という概念を改めて論じているところです。それが資本主義でもなく、従来の社会主義でもない、第三の道を開いてくれるとしているんです。

−2つ目の小テーマは「暮らしと地球にいいこと」でした。環境を意識した食やライフスタイルの本が選ばれています。特におすすめの本はありますか?

 『「森の生活」ソローの生き方を漫画で読む』はいかがでしょうか。大著『森の生活』で知られる19世紀アメリカの思想家、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの評伝的マンガです。本編は私の人生のベストテンに入るような本ですね。
ソローはウォールデン湖畔の森にひとりで籠もって思索にふけることで、「孤独であること」の重要さを教えてくれます。今の時代の娯楽はシェアを前提としていて、人と人とが過剰につながり合っている。だから逆に、ソローのようにひとりで過ごすことが豊かさをもたらしてくれるのではないでしょうか。GRAND PATIOで本を読んだり、多摩川沿いを散歩したりするのもいいかもしれませんね。

−都市生活でもすぐに実践できそうなアイデアについての本もありますね。

 環境問題といっても、自分に何ができるだろう? そう考えた時に、一番リアリティのある実践例が示されているのが、佐久間裕美子さんによるアメリカからの最新レポートをまとめた『Weの市民革命』です。
アメリカのミレニアル世代やジェネレーションZは買うものを決める時に、「企業の労働環境は快適で働きやすいか」「商品の生産過程は環境に有害でないか」などを基準にしています。そうしなければ、もう自分たちの未来が描けないことがわかっているからです。これからは、日本でも同じようなマインドが広がっていくのではないでしょうか。

−3つ目の小テーマは「未来の子どもたちのために」です。漫画版『風の谷のナウシカ』などもありますね。

 ナウシカは映画版も素晴らしいですが、漫画版をぜひ読んでほしいですね。汚染されてしまった地球環境とどう対峙するのか。それを物語として描いている一大叙事詩です。
特にクライマックスの「墓所の主」との対話シーンはすごい迫力ですね。ナウシカは汚染された世界の未来を左右する、壮大なスケールの選択を迫られます。そこで彼女は汚れた生き物たちと共に生きていくために、大きな決断をするんです。
これは完全に「予言の書」になっていますね。人間が生きること自体が、地球の環境にとっては害悪になり、マスクをしないと生きていけない世を、宮崎駿さんは1980年代初頭から見抜いていたんだと思います。

−親子で一緒に考えられるような絵本もありました。

 加古里子さんの『地球』は素晴らしい1冊です。加古さんは、「科学絵本」という分野を日本でつくった第一人者。子どもたちが疑問に思うことを、自然科学の視点からわかりやすくビジュアル化してくれます。この本は、まず子どもたちの身の回りの世界を描く。そして、自然、都市、地球、銀河系はどのように作られているかを見せていく。
加古さんは、解説で「科学絵本を描く時は『おもしろくて』『総合的で』『発展的な内容』を心がけている」と書いていますが、これは読書の本質とも言えるのではないでしょうか。1冊の本を読み通した時に、好奇心を駆動させられて、そこで完結せずに次の本を読みたくなる。そんなエネルギーが、読書にはあるんじゃないかと思うんです。

−GRAND PATIOで出会った本も、「次の一冊」につながる入り口になるのではないかと思いました。今回は、全体としてどのようなことを心がけて選書されましたか?

 お話した通り、自然科学の分野だけでなく、絵本、漫画、写真集など、かなり幅広いジャンルの本を選んだので、環境問題にあまり関心がない方でも「自分ごと」として感じられるようにしました。意識を高めてくれるきっかけはどこに潜んでいるかわかりません。まずは、ご自身の琴線に触れる1冊を手に取ってもらえたらと思います。

Book Selection
幅 允孝
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。人と本の距離を縮めるため、図書館や病院など様々な場所でライブラリーの制作を手がける。近年の仕事として札幌市図書・情報館の立ち上げや海外のJAPAN HOUSEなど。2020年7月に開催した「こども本の森 中之島」ではクリエイティヴ・ディレクションを担当。
Instagram: @yoshitaka_haba
幅さんの選んだ書籍は本館GRAND PATIOでご覧いただけます。
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  • Theme.1 美味しく食べ続けるために
  • Theme.2 身体の変化に寄り添う
  • Theme.3 時間を慈しむ