Takashimaya
Creator Interview 012023/03/22
「有松鳴海絞り」で世界とつながり、
未来へ希望をつなぐsuzusanを目指して。 suzusan クリエイティブディレクター 村瀬弘行氏

江戸時代の浮世絵さながらの情緒豊かな景観が広がる愛知県名古屋市・有松。この町で400年以上前から受け継がれている伝統の染色技術「有松鳴海絞り」。
今回は、有松鳴海絞りを家業とする「鈴三商店」の5代目であり、伝統の技術と魅力を独自の視点で世界へと発信している〈suzusan〉クリエイティブディレクターの村瀬弘行さんにお話を伺いました。

2023/03/22

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Creator Interview 01

新しい発想で、「有松鳴海絞り」を
世界の〈suzusan〉へ

「父親は、”もう15年もしたらこの産業はなくなる”と言い、私に家業を継ぐことを求めませんでした。有松鳴海絞りは学術的には技術や文化が認められている一方で、時代の変化により、産業としては衰退しつつあったからです。

そんな中、ドイツに留学をしてアートを学んでいた時、父の作品を見た友人(現在のビジネスパートナー)が、「これは面白い!」と、とても興味をもってくれたのです。このことが私の視点を変えるきっかけとなり〈suzusan〉をスタート。2008年、学生寮のキッチンでの出来事です。

まずは、自分たちの手仕事やテキスタイルをいろいろな方に見てもらわなければと、有名メゾンをまわりました。すると誰もが「このような技術や手仕事は見たことがない」と驚いてくれて…。自分たちが見慣れていたものにも大きな価値があるのだと再認識しましたね。まさに、マルセルデュシャンが「泉」という作品で世界に示したように、視点をAからBに移すことで、日本に埋もれている価値に光をあてることができるのではと気付かされました。」

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歴史も技術も文化も人もつなぐ
ブランドでありたい

「浴衣の需要とともに、産地ではその技術自体を使う機会が減っています。ファッションブランドとのコラボレーションが実現したとしても、毎回その技術が必要になるわけではありませんからね。
だからこそ、もし自分たちで絞りの技術を毎シーズン使えるようなれば、技術や職人の未来がつながって、産地を存続させられるでないかと考えるようになりました。

そこで辿り着いたのは、「素材(木綿)」
「技術(絞り)」「用途(浴衣)」という要素に分けて、「素材」と「用途」を変化させることで、「技術」を残すという発想です。
たとえばsuzusanでは、素材をカシミヤにし、用途は海外の方が日常で使うことができるストールやニットにすることで、絞りの技術を現代につないでいます。

また、かつては、家ごとにそれぞれの技術をもっていて、ひとつの柄ごとに別の家族がその役割を担っていました。suzusanでは今、社内でその技術の育成にも取り組んでいます。高度な技術と新しい技術をデザインに組み合わせることで、熟練の職人と若手の職人がどちらも活躍できるプロダクトに昇華していきたいと思っています。」

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2023年春夏コレクション
「CYCLE」

「2022年の1月頃、ドイツでも再度ロックダウンがあり、また終わりが見えなくなるという閉塞感を感じていました。そんな中、外の景色に目を向けてみると、土から新しい芽が顔を出していたのです。花が咲き、うさぎが出てきて…。そんな春の息吹に勇気づけられ、インスピレーションが沸いてきました。
今回のコレクション「CYCLE」では、自然のサイクルはどんな時でも同じだという希望をかたちにしています。

suzusanの原点は「有松の絞り屋さん」です。
今、私たちが目指しているのは「文化をブリッジするブランド」。東から西、昔から今、人と人、ジェネレーション、ファッションとライフスタイル…。さまざまな文化をつなげていきたいと考えています。
現在は世界23カ国と取引をしていて、suzusanをきっかけにいろいろな方が有松を訪れてくれるようにもなりました。
有松に来て、職人と触れあって、袖を通すたびに風景を思い出していただけるようなエクスペリエンスを作りたい。作り手と使い手の共感を生み出せる場所として、ホテルも将来のビジョンとしてイメージしています。

これからも、日本に眠っている素晴らしい伝統文化や手仕事の可能性を、世界へ、次世代へと、suzusanを通してつなげていきたいです。」

語り手:村瀬弘行 (suzusan)
聞き手:山本紗矢佳(Salon le Chic)

suzusan
Creative director


Hiroyuki Murase

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●プロフィール
1982年愛知県名古屋市生まれ。
suzusan CEO兼クリエイティブディレクター。
伝統の染色技法「有松鳴海絞り」を家業とする「鈴三商店」の5代目。2003年に渡英、サリー・インスティテュート・オブ・アート&デザイン(現UCA芸術大学)を経てドイツ・デュッセルドルフ美術アカデミーで立体芸術・建築学を学び2011年に卒業。在学中の2008年に「suzusan e. K」をドイツで設立した(現suzusan GmbH & Co. KG)。