ようこそ日本橋高島屋S.C.本館 重要文化財ツアー Vol.1百貨店建築の 歴史をひもとく

百貨店建築として初の重要文化財である、日本橋高島屋S.C.本館。毎月1回「日本橋高島屋 重要文化財見学ツアー」を開催しています。大人気でなかなか予約が取れないというお声もいただくこのツアーの中身を、ほんの一部ですがご紹介いたしましょう。ご案内するのは日本橋高島屋S.C.本館のコンシェルジュ、岸和彦です。日本橋高島屋S.C.本館のコンシェルジュとして、店頭でのご案内をはじめ、お客様一人ひとりのご要望やお悩みにお応えした「おもてなし」を提供しております。

日本橋高島屋S.C.本館の前に立つコンシェルジュ・岸和彦の写真


1933年「東洋趣味を基調とする現代建築」が誕生 


高島屋は天保2年(1831)創業、京都・烏丸の地に古着木綿商として、初代・飯田新七が興したのが始まりです。店舗として東京に進出したのは明治33年(1900)のこと。時を経て、昭和8年(1933)に現在の地である日本橋に店を構えるに至ります。

高島屋東京日本橋店の建築にあたっては、「東洋趣味ヲ基調トスル現代建築」という様式を求めた設計図案競技で、1等当選した大正・昭和期に活躍した建築家・高橋貞太郎の案が採用されました。創建時の名称は「日本生命館」。重厚な西欧の歴史様式に、和風建築の意匠が随所に見られます。
また昭和27年(1952)から40年(1965)まで4期にわたり、昭和を代表する建築家・村野藤吾による増築で、さらに大きく、モダンで魅力的な店舗に。高橋貞太郎の意匠を継承しつつ、近代建築の手法をふんだんに取り入れて見事な調和を見せる、昭和建築の名作となりました。

平成21年(2009)、日本橋高島屋は百貨店建築初の重要文化財の指定を受けました。(指定名称は高島屋東京店)高橋貞太郎の当初設計部分と、村野藤吾による増築部分から成り立っており、その全体が一体不可分の建築作品として完成度が高く、「意匠的に優秀なもの」と評価されたのです。では、建物のデザインを見てまいりましょう。

日本橋高島屋S.C.本館1階吹き抜けホールから見上げる格天井。


高橋貞太郎の建築に敬意を表した村野藤吾のデザイン 


中央通りに面したエントランスから店内に入っていただき、大理石の柱が並ぶ吹き抜けをご覧ください。柱の上には、肘を折ったような形をした「肘木(ひじき)」に「雷紋(らいもん)」という紋様が施されています。正面玄関の吹き抜け天井には、寺院などに見られる、格式の高い「格天井(ごうてんじょう)」が採用され、1,000個以上の「ロゼッタ(石膏の飾り)」が創建時の姿のまま飾られています。

創建時には、高橋貞太郎デザインのシャンデリアが設置されていましたが、戦時中の金属提供により、シャンデリアやエレベーターの一部、さらにはエスカレーターや冷暖房装置までもが撤去され、供出されていったという歴史があります。現在のシャンデリアをデザインしたのは、増築を担当した村野藤吾。高橋貞太郎がデザインした格天井のロゼッタ装飾に敬意を表して、同じようなデザインの装飾を和風のシャンデリアの中心に配置しています。

2階回廊から見る格天井と村野藤吾デザインのシャンデリア。

館内では2人のデザインの違いを見ることができます。高橋貞太郎が設計した、1階正面エレベーターの左側の階段は重厚なつくりで、階段に使われている大理石には、アンモナイトやベレムナイトなどの化石を見つけることができます。また、村野藤吾が設計した階段は、手すりなどがモダンな感じのつくりで、中央階段は、高橋貞太郎の階段と比べると段差がやや低く、きものでも登り降りがしやすいつくりになっています。

高橋貞太郎デザインの階段。大理石に隠れている化石。

村野藤吾デザインの階段。低い段差を示しています。


建物の外観が最も美しく見える比率と、増築の妙


では外から日本橋高島屋S.C.本館を見てみましょう。建物を正面から見ると、荘厳な三層構成になっており、基部となる1・2階、中層の3階から7階、上部の8階の3つに分かれています。上部1:中層4:基部2の比率が、建物の外観が最も美しく見えると言われております。1階と2階は花崗岩、3階から7階はタイル、8階はテラコッタが使用されています。

正面外観。

次は建物の南側に回ってみましょう。東側に向けて、増築部分のデザインを見ることができます。増築にあたり村野藤吾は、日本生命の“品格ある増築”と高島屋の“明るくモダンな感覚”という2つの要望を受け、増築部分の7・8階は同じ建築様式でつなげ、2階から6階はガラスブロックを大胆に使用することで、両社の意見をうまく取り入れた建築を完成させました。

第1次増築部分のガラスブロック。

ガラスブロックは、夏は涼しく冬は暖かく、商品も自然な光で見ることができます。このガラスブロック部分にアクセントをつけたいということで、第1次増築部分(5階部分)のバルコニーに、白い蛇のような塑像を配しました。作者は、昭和の屋外彫刻のパイオニアである笠置季男です。また、さくら通り側には、村野藤吾の友人である彫刻家、辻晋堂の「バラ」をモチーフにしたオブジェもあります。

笠置季男のオブジェを指差す岸和彦。

いかがでしたか? 今回は重要文化財である日本橋高島屋の建物のデザインについてご紹介しました。ぜひ、ご来店いただいて、実際に建物をご覧ください。まだまだ、お話したいことがたくさんあります。次回もご期待ください。

関連記事