カルチャーのある暮らし

普段の暮らしの中にある、本や音楽やアートそしてこだわりのインテリアなど、
カルチャーから広がるライフスタイルをご紹介するこのコーナー。
今回のゲストは、駒沢に店舗を構えるブックストア兼ギャラリーSNOW SHOVELINGの店主、中村 秀一さん。
玉川高島屋S・Cにもよく足を運ぶという中村さんのアノニマスなモノに囲まれた空間は、
心地よさを追求しながら現在進行形で変化し続けています。

Person 1
大島タダトモ
SNOW SHOVELING BOOKS&DIALOGUE

-まさか店舗のあるマンションにお住まいだとは思いませんでした。ご自宅のインテリアも店内と世界観が共通していますね。どのようなイメージで空間作りをされているのでしょうか?

中村 店は、ニューヨークにある本屋やホテルのラウンジをキービジュアルにしています。僕の大好きな場所をいいとこ取りして再構築したという感じですね。
 自宅はもともと住居として借りたわけではなく、店のトイレがないのでどうにかしたいと考えていたとき、上の部屋が空いたというからすぐ決めてしまったんですよ。当時、ちょうどAirbnbが流行り始めていた頃で、“本屋の上のアパートメント”と銘打って人に貸していた時期もありました。なので人を招くことを意識して、壁を塗ったり、棚を作ったり、自分で手を加えた部分も多いですね。イメージとしては、ニューヨーク・ブルックリンのアパートメントというところでしょうか。今も店でイベントを開くときなどには自宅のトイレを貸したり、閉店後にそのままお客さんたちと飲むことがあったりと、人を招く機会も多いです。そんなとき、飾っているアートや本から「これ、好きなんですね!」と会話が始まって、一気に親しくなるということもよくあります。この部屋は自分の楽しみのためだけでなく、一種のコミュニケーションツールになっているんですよね。

-玄関、リビング、寝室、キッチン……あらゆる場所に絵画やポスター、写真などが飾られていますが、とくにお気に入りのものはありますか?

中村 玄関の壁に飾っているのは安西水丸さんの版画です。ファンである村上春樹さんの本の装丁が安西さんを知ったきっかけ。最初は「僕でも描ける絵」という印象でした(笑)。ところが、いろんな作品を見ていくうちにじわじわと彼の作品の虜になって、偉そうに言うと自分にフィットしてくるような感覚が生まれてきたんです。さらにご縁があって、安西さんと個人的に知り合う機会もあり、絵だけでなく人柄も含めて大好きな作家さんです。どれくらい好きかというと、安西さんが他界されたあと、飼い始めた猫に「水丸さん」と名前をつけたくらい。
 リビングに飾っているのは、エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』。パッと見てきれいというよりは、染み出してくるような物悲しさのある絵です。描かれているのはバーカウンターに座る3人の客。このワンシーンからいろんなことが想像でき、何度見ても飽きない絵です。絵の上に照明をつけているのですが、これはぜひみなさんにおすすめしたいですね。夜中水を飲みに起きたときなど、暗がりでポツンとライトアップされた絵をボーッと眺めるのはすごくいい感じなんです。

-部屋のあちこちに貼られた“言葉のメモ”やタイポグラフィポスターも気になります。

中村 これは自分への啓蒙・自己啓発ですね(笑)。ダイニングテーブルに留めているのは、アメリカの劇作家カート・ヴォネガット・ジュニアが引用していた言葉。「誰か教えてくれないか、自分にはどうにもできないこととどうにかできるものを判別する力を」といった意味です。一番気に入ってるのは「MAKE SOMETHING」。これを見るたびにやらなきゃ、と思えるんです。英語で書かれたメモやポスターは、単に見た目の“おしゃれ感”だけでなく、「訳す」という行為を通すことで解釈の仕方が変わる面白さがあります。絵と同じように毎日言葉の意味の感じ方も変わるんですよ。

-壁一面の本棚もインテリアの一部になっていますね。面だししている本にはどんな意味があるのでしょうか?

中村 リビングと寝室に本棚があるのですが、どちらも壁に合わせて自分で作ったもの。面出ししている本は気分によって入れ替えています。たとえば、現代美術家の杉本博司さんの個展の作品図録や、大竹伸朗さんのアーカイブ展で購入したバインダー。こうして目に触れる場所に置いておくことで、「このあいだ展示を見てきたんだけど、すごかったんだよ」と、会話の入り口になることもありますし、ワクワク感や刺激を何度も感じることができます。

-自宅も店舗も実際に中村さんが暮らしたアメリカやイギリスのカルチャーが生かされているように感じます。中村さんがインテリアの参考にしたりインスピレーションを受けたりしたものはありますか?

中村 映画にはたくさん影響を受けていると思います。なかでもウディ・アレンの映画のインテリアが好きですね。いわゆるニューヨークのインテリ層が暮らす部屋。僕はショールームや広告写真のように作り込まれた、かっこよ過ぎるインテリアよりも、主人公が暮らす生活感あふれる部屋の方に惹かれてしまうんです。
 アートには、描かれた図像からそれを生み出した社会や文化全体との関係性を解釈する「イコノロジー」という技法があります。これは映画にも言えることで、たとえば部屋の本棚をよく見ると、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『ウォールデン 森の生活』が置いてあると気がつく。するとそこから主人公の趣味嗜好や暮らし、性格までも想像することができますよね。作品の面白さや深みがグッと増すんですよ。僕は、鹿児島の田舎育ちで、中高生時代には一冊の雑誌を舐めるように何度も眺めたものでした。そのせいで、映画もすみずみまでじっくり観るのが癖になってしまっているのかもしれません。ついついDVDを止めては「あのレコードが置いてある!」なんて一人で盛り上がってしまいます(笑)。

-家具は味わいのあるものばかりですが、こだわりはありますか?

中村 置いてある家具は、作られた国も年代もてんでバラバラです。とくに作家のものというわけでもありません。ジャン・プルーヴェやミース・ファン・デル・ローエの椅子なんか見れば素敵だなぁと思うのですが、自宅に置きたいと考えたことはないですね。
 海外に暮らしていた90年代に、マーケットなどで買い集めたものもあります。収納や衣装箱として使っているのはグローブ・トロッターのトランク。これはイギリスのマーケットで購入しました。大・中・小とサイズを揃えて積み上げるとすごくおしゃれなんですよ。

-年代も国も異なる家具やアート作品、また自身で作ったものと新しいものがごちゃまぜになった空間なのに、不思議と居心地の良さを感じますね。

中村 自分の人生とも掛け合わせているのかもしれませんが、僕は、結局のところ何者でもない、アノニマスなモノに深い愛情を持ってしまうんですよ。
 それから、自分で掘り出したり見つけたりすることに、生きがいを感じている部分もあります。僕は高校を卒業してすぐの頃、アメリカで古着のバイヤーをしていたことがあって、蚤の市や古道具屋に行くと、あの頃のハンター精神的な興奮がよみがえってきて、アドレナリンが出てしまうんですよね(笑)。

-中村さんは3年ほど前に神奈川県の清川村に山小屋を手に入れ、現在は二拠点生活をされていらっしゃるとのこと。中村さんにとって、自宅、店舗、山小屋の3つの空間はそれぞれどんな役割があるのでしょうか?

中村 店は気持ちよく仕事をできる場所であり、ここにいることが誇りに思えるような場所にしたいという思いがありますね。清川村の山小屋は、リラックスというよりもワイルドな状況を求めています。あえて不便な暮らしをすることで、普段の自分の思考がねじれたり階段を踏み外すようなことが起こりやすいようにしておきたいんです。室内のインテリアだけでなく、林に囲まれていたり焚き火をしたりとかそういうことも含めて一つの場所が出来上がっているように感じます。自宅はやっぱりコンフォータブルであることが大切。心地よさを追求しながらモノを足したり引いたり、作ったり。
 “ing”が一番楽しいですよね。あそこにあのアートを飾ってみたいなとか、ここに手を加えたらもっと素敵になるかなとか、部屋を眺めながら想像し、改善を繰り返していく方が面白いし好きなんです。自宅も店も山小屋も、その場所に合わせた心地よさを作り続けています。

SNOW SHOVELING BOOKS&DIALOGUE
中村秀一
Tadatomo Oshima
1976年生まれ、鹿児島育ち、東京在住。グラフィックデザイナーを経て、2012年、世田谷区駒沢に「SNOW SHOVELING BOOKS&GALLERY」をオープン。本だけでなく「ヒト・モノ・コト」との偶然の出会いを楽しめる自称「出会い系本屋」として読書会やイベントも開催。現在は自宅と神奈川県・清川村の山小屋との二拠点生活を送る。
http://snow-shoveling.jp/