サステナビリティ

Sustainability

高島屋グループのESG経営

人的資本経営の推進

百貨店を中核事業とする当社において、企業の競争優位性の源泉や、価値向上の大きな推進力となる「ヒト」や「ノウハウ」など、無形資産である「人的資本」への投資は、企業成長や価値向上に直結する重要な戦略投資であり、社会のサステナビリティと企業の利益創出を両立する上でも必須となります。

時代の変化がますます加速していく中、百貨店の営業力強化やグループ会社の業界競争力獲得・事業領域拡大を果たしていくためには、確立された事業ノウハウと変化対応力の両方をあわせ持つことが必要であり、これを実現する上では人的資本への投資による専門性・多様性の育成・獲得が不可欠です。

当社においては、経営理念やビジョンの共有、従業員の労働条件向上や各種制度の拡充に加え、従業員エンゲージメントの可視化・向上、人材育成やキャリアサポートの拡充、ダイバーシティやワークライフバランスの推進、労使で社会的責任を果たすための「グローバル枠組み協定」の締結と実践など、人材の価値や意欲を引き出し、企業価値向上につなげる「人的資本経営」を推進しています。また、お取引先従業員も当社の重要な人的資本と位置づけ、当社従業員だけでなく、お取引先従業員からの声も収集し、当社で働きたい・働きやすい職場環境の整備に取り組んでいます。

具体的には、各店舗や施設で働く従業員が利用する社員食堂の魅力化、後方施設の改善や煩雑な販売手続きの簡素化、百貨店店舗の労働改善に向けた営業時間短縮・休業日の設定など、一人ひとりの事情や状況に合わせた働き方で「個」を活用し、それぞれの価値を最大限に引き出す活動を推進しています。

人的資本経営の推進を通じ、当社が目指す将来像の実現に向け、どのような人材を求め、どのように育つことを支援し、どのように事業・業務に生かして成果発揮につなげるかを検討し、グループ会社やお取引先からの派遣従業員を含め、一人ひとりが主体的に生き生きと働き、取得した専門性・能力を発揮して成果を最大化できる「場」を確立していきます。
また、多様な価値観・働き方を認め合い、相互にコミュニケーションを図ることによりイノベーションを生み出す「場」への好循環を確立することで、持続的成長が実現できる体制を構築していきます。

人的資本経営 ー ガバナンス

人的資本に関するガバナンスは、環境に関するガバナンス同様、グループESG 経営として、当社の内部統制システムに組み込まれており、取り組み状況や課題などをグループ横断的に検証し、協議・確認された内容を取締役会に報告しています。

人的資本経営 ー 戦略

従業員エンゲージメントの可視化・向上

人的資本経営推進の大きな柱として、グループ会社やお取引先従業員(百貨店におけるローズスタッフ。以下、RS)を含む従業員エンゲージメントの可視化・向上の取り組みを推進しています。まず、健康経営の推進に向け、全従業員を対象に実施している「ストレスチェック」調査項目に、エンゲージメント関連項目を新たに追加。メンタルヘルス(ストレス)とエンゲージメントを同時に測定し、より高い生産性実現のための組織づくりを進めています。従業員エンゲージメントの向上においては、職場環境や組織風土の改善、各種制度の拡充や納得性のある人事制度運営などに加え、各社・各部・各店・各職場の調査結果を踏まえ、課題把握と改善策を職場単位で検討・実施し、PDCAサイクルに基づき、今後も労使一体で進捗状況を検証・確認していきます。とりわけ百貨店の店頭で販売の最前線を担う RSは、当社において非常に重要な存在であり、さらなる営業力強化を図るためには、働きやすい職場環境を整備し、満足度や一体感を高めていくことが不可欠です。そこでRSを重要な「人的資本」として位置づけ、その価値を最大化するためのアンケート調査を実施。「満足度」や「悩み・不満」を可視化し、改善に向けたアクションを適時行うことで満足度の向上を図っていきます。こうした取り組みを通じ、働きがいの創出や生産性の向上、人材の定着化や一体感の醸成につなげ、持続的成長が可能な体制構築を目指していきます。

人材育成方針

当社は、「営業力強化」「組織力の向上」「働きがいの向上」に向け、人材育成の基本方針を定め、社内外や時代を見据えた人材育成に取り組んでいます。社会環境が急激に変化する中、企業の持続的成長には、未来を見据えた事業のトランスフォームが不可欠となります。そのために、多様な人材が主体的に能力開発に取り組み、自律的にキャリアを形成していくことを大切にします。当社の人材育成の根幹は「OJT」です。「OJT」により、業務現場でしか得られない仕事の進め方や知識・技能を習得し、実務能力や問題解決力を高めます。また、多様な「Off・JT」により、業務現場以外の急変する環境に即した教育を有機的に組み合わせることで、クリエイティブ・イノベーティブな発想力・構想力を養っていきます。


重点課題とアクションプラン環境


当社は、OJTを基本としつつ、計画的に自らキャリアを開発できるよう、「社会人として必要となるビジネス基礎能力」を習得するプログラムや、専門性をより一層高めるための職務別・ジャンル別のプログラムなどの研修メニューを整備しています。多様な働き方をしている全従業員が能力開発に取り組めるよう、短時間で学べるプログラムや通信教育の拡充にも取り組んでいます。

キャリアサポート

当社の人事に関する制度運営は、「個人の自主性の尊重」を基本的な考え方とし、一人ひとりの個性と意欲を尊重した人材育成を目指しています。キャリア実現に向けたサポートの一環として、職務別の「職務基準書」を整備し、求められる「業務内容・職務経験・資格(講座)・資質・人材要件定義」などを明示し、自律的にキャリアルートを描く人事管理体制を整えています。「職務基準書」に明記された「人材要件定義」を核とし、自らの現状と現職に求められる能力との差や、自ら目指すキャリアに必要な能力との差を、本人と上長間で可視化し、計画的な能力開発の実現を目指しています。また、一人ひとりが自らのキャリア開発のための意向を伝える仕組みとして、以下の制度を整備しています。

●アセスメント制度

年に一度、「能力評価アセスメント(各職務に求められる「能力・スキル」などと現在の自分との差異を明確化し、今後の能力開発計画に反映)」、「自己申告(進路・キャリアプランなどの意思表明)」について確認し、ジョブローテーションの参考にしています。

●オープンエントリー・FA制度

自らのキャリアを自らの意思で実現していくため、本人の具体的職務への強い希望を、ジョブローテーションに活用する制度です。自らが希望する職務に自ら手を上げ、その意欲を配置で実現する仕組みにより、一人ひとりが専門能力を持ったプロとして自立できることをサポートしています。

ダイバーシティ推進

SDGs が目指している「誰一人取り残さない」社会の実現には、すべての人の人権や個性、価値観を尊重するとともに、文化や慣習などの違いを相互に受容することで、人種や国籍、年齢や性別、性的指向・性自認や障がいの有無などに関係なく、すべての人々が活躍できる社会の構築が不可欠です。当社は、多様な価値観や生活背景を有する人材の能力が最大限に発揮できる環境を整備し、「人と企業の双方の成長」を実現するための取り組みを行っています。2020年に策定した「ダイバーシティ推進方針」に基づき、多様な価値観や能力を尊重し、企業の成長に結びつける取り組みを推進しており、今後も、あらゆる人材がその能力を最大限発揮でき、やりがいを感じられるダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指していきます。

女性の活躍推進・ジェンダー平等に向けては、固定的な性別役割分担意識を払拭し、男女問わず育児と仕事の両立を実現することが不可欠です。当社は、「男性育休100%宣言」に賛同するとともに、女性活躍に関する数値目標の設定や課題抽出を行い「女性活躍推進行動計画」を策定するなど、性別に関係なく働きやすい職場づくりにり組んでいます。その一環として、管理監督者を対象に、女性活躍・ジェンダー平等をはじめとする「ダイバーシティ教育」を実施しています。2021年度は、ダイバーシティ&インクルージョンが組織に与える影響や、具体的事例の共有など、従業員の意識や行動の気づきにつなげることを目的とした、アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)研修を実施しました。また、「多様な部下育成研修」において、育児介護など、さまざまな制約や事情を抱えた部下とのコミュニケーションや、潤滑な職場運営について学ぶ機会を設定しています。管理監督者向けダイバーシティ教育の実施により、コミュニケーションの活性化や、多様な人々が活躍できる風通しの良い職場風土の醸成につなげています。

ワークライフバランス

当社は、生活文化を提案していく企業です。豊かな生活提案のためには、従業員がゆとりある生活者であることが必要です。それぞれが「キャリアビジョン」と「ライフスタイル」をしっかりと設計し、実現するためにサポートの仕組みや制度を都度整備し、働く「人」とその家族が「豊かでゆとりある生活者」として生活を築き上げる努力を支援する制度を、広く整えていきます。2015年、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定(くるみん認定)を受けている企業のうち、より高水準の取り組みを行った企業として「プラチナくるみん」の認定を受けました。2017年には、役員・管理職への女性登用に関する方針、取り組みおよび実績並びにそれらの情報開示において、顕著な功績があったと認められ、女性が輝く先進企業「内閣総理大臣表彰」を受賞。また、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む法人として、経済産業省「健康経営優良法人2023」大規模法人部門に認定。従業員の健康保持・増進やワークライフバランスのさらなる実現のために、時間外労働の削減や安全衛生に向けた取り組みを行っています。

「グローバル枠組み協定」の締結と実践

「グローバル枠組み協定(以下、GFA)」とは、企業の行動規範に関する労使協定です。企業の社会に対するコミットメントを企業自らが宣言するだけでなく、労働者を代表する労働組合との協定として調印し、共に推進することを謳う共同公約です。当社は2008年11月、髙島屋労働組合・JSD(現:UAゼンセン(※1))・UNI(※2)との4者による「GFA」を日本企業労使で初めて締結しました。経済の国際化を背景に高度化する「社会的責任」を、労使一体となり高次元で遂行することを目指し、毎年度、活動の検証を実施。さらなる実践力発揮に向けた取り組みを推進しています。また、UNIの国際ネットワークを生かし、今後の拡大を見込むアジア地域での事業活動のリスク対応を強化し、より社会の期待に応える企業づくりに取り組んでいます。具体的には、労使で社会的責任を果たすための実践項目として掲げた「地球環境に対する影響への対処」「職場と地域社会における人の尊厳・基本的人権への対処」「従業員への理解浸透」について、確認・検証を逐一、行っています。

  • ※1 : 2012年に、サービス・流通連合とUIゼンセン同盟が統合して誕生した産業別労働組合組織。
  • ※2 : Union Network International 世界150カ国、900の労働組合、2,000万人のサービス産業で働く労働者で構成された国際産業別労働組合。スイスのニヨンに本部を置く。

人的資本経営―リスク管理

デジタルスキルの向上

世の中の環境変化に対応し、企業競争力を高めていくためには、デジタル技術やデータを活用し、商品やサービス、業務プロセスの変革が必要であり、そのためには、従業員の高いデジタルスキルが求められます。当社はデジタル技術による事業や業務の変革を目指しデジタルツールを活用した業務改善や従業員スキルの底上げを重要と捉え、各種教育・研修や人事考課目標への組み込みなどを実施しています。

従業員が安心して働ける環境の整備

当社は、すべての従業員が安心して働けるよう、コンプライアンスや就労管理に関する管理監督者教育や従業員への啓発を実施しています。加えて従業員が不正行為などの疑念を持った場合の通報窓口や、労働時間や休日・休暇に関する疑問・悩み、健康・メンタルヘルスに関する相談窓口を設置。専門カウンセラーによる社外窓口も設けるなど、相談者に不利益が生じない環境を整備しています。

高島屋グループ相談窓口一覧

  • ・ハラスメント・ホットライン(社内・社外)
  • ・コンプライアンス・ホットライン(社内・社外)
  • ・LGBTはたらく相談窓口(社内・社外)
  • ・就労相談窓口(社内)
  • ・24時間電話健康相談サービス(社外)

ESG経営の社内浸透

「すべての人々の心豊かな生活」を目指すESG経営の社内浸透に向け、全従業員に対する意識啓発に取り組んでいます。その一環として実施した「アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)」をテーマとした研修では、固定観念による意思決定や、何気ない一言による偏見が、人間関係や従業員のモチベーションを悪化させ、組織の生産性低下を招くことを理解・共有しました。さらに、社内報「TTimes」(年4回発行)や、社内コミュニケーションツール「ローズスマイル」などを活用し、ESGに関する情報共有や意識啓発に努めています。こうした取り組みを通じ、離職率の低下や多様な人材の確保、生産性の向上やイノベーションの創出、ハラスメントの防止など、多くのメリットを享受し、企業価値向上につなげるマネジメントを推進していきます。

人的資本経営― 指標と目標

当社は、人的資本経営を推進する指標として、ESG重点課題で掲げた「ダイバーシティ推進」や「働き方改革推進」に関する指標と下記数値目標に加え、「従業員エンゲージメント」や、「ローズスタッフ満足度」を新たな指標に加え、人的資本経営の推進に取り組んでいきます。

  • ※下記指標に加え、社員離職率、育児休業復職率、男性育児休業取得率など、人的資本経営に関連する項目は、実績数値を開示。
KPI 数値目標(2022年度は実績値) 取り組みポイント 他
2022年度 2023年度 2025年度 2030年度
エンゲージメント指数 - 数値目標は現在検討中 従業員エンゲージメント調査より目標値設定
ローズスタッフ満足度 - ローズスタッフアンケート調査より目標値設定
女性管理職比率 27.8% 33.3% 35.4% 40%以上 公正公平な人事運営、両立支援制度拡充 他
有給休暇取得率 71.6% 65% 80% 100% 取得しやすい環境整備、従業員意識啓発 他
人当生産性向上 4.7百万円 3.9百万円 4.7百万円 6.6百万円 構造改革による生産性向上、DX化推進 他