高島屋・東神開発都市文化賞 2025
TAKASHIMAYA TOSHIN DEVELOPMENT URBAN CULTURE AWARD MMXXV

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設立趣旨/選考概要

設立趣旨

「都市文化」という語が、かつてほどに明確な意味を持たなくなってきている。このたび、株式会社高島屋と東神開発株式会社が設立する「高島屋・東神開発都市文化賞」は、こうした曖昧さを出発点に、改めて都市文化という概念を問い直す試みである。言い換えれば、本賞は都市文化という概念を再び「問い」に戻す装置でもある。

そもそも百貨店は、20世紀型の近代都市において文化の媒介点であった。そこには、モノの流通以上に、価値観の流通があった。陳列された商品は単なるモノではなく、時代ごとの欲望の集積そのものであった。そうした欲望の編集を通じて提案される生活スタイルから、人びとは日常の「ふるまい方」を選びとっていく。都市に生きるとはどういうことか、そのモデルがそこに示されていた。

そして2020年、私たちはパンデミックに遭遇する。人びとが集い、語らい、憩うそうした自明ともいえる行為が突如として停止され、「都市に生きる」ことの意味が、制度的にも感覚的にも根底から揺さぶられる事態となった。これにより、商業空間が自明としてきた公共性や共在性が、実はひどく脆弱なものに過ぎないことを、私たちはまざまざと見せつけられる。しかも、パンデミックが終息したにもかかわらず、社会は元に戻るわけではなかった。いや、そもそも「元」というものが幻想だったのかもしれない。私たちはパンデミックによって社会が変わったと語るが、それこそが、変化を一時の異常に見立てることで、既に進行していた地殻変動を見ないようにしてきた証ではないのか。

分断は深まり、共通の価値基盤は音を立てて崩れ、消費も流行も、異なる軌道を一様でないリズムで回り続けている。都市文化とは、もはや単一の像を結ばない。都市文化とは、さまざまなズレが交錯する無数の差異の集積で、むしろ「定義されること」を拒む。都市文化とは、ただ流動的な現象そのものとして、いまそこにある。
こうした現代において、私たちは、なおもこの輪郭のあいまいな「都市文化」という言葉を手放さずにいようとする。その理由はひとつ、「わからないからこそ、考え続ける」価値があるからだ。

本賞は、優れた著作物に光を当てるという意味において顕彰の形式をとるが、本質的には、都市文化への「継続する問い」である。わたしたちは、年間を通じた議論の場を通して、「都市文化とはなにか」という問いに開かれた回路を持ち続ける。「高島屋・東神開発都市文化賞」とは、賞であると同時に、プロセスでもある。それは、固定された賞制度ではなく、可動し続ける実験場として構想されている。

企業活動と並走して本賞の活動を行うことで、わたしたちはむしろ問いかけたい。企業と社会、消費と文化、経済と倫理は、どのように関係しうるのか?都市における「豊かさ」とは、いったい何を意味するのだろうか?
まだ見ぬ未来を確かな言葉で語ることはできない。けれど、その輪郭を少しでも描くことはできるかもしれない。本賞が、都市文化に関心を寄せる人々の思考の触媒となれたなら、これに勝る喜びはない。

株式会社高島屋・東神開発株式会社

選考概要

現代における都市文化を、商業や消費等の観点から独創的な視座のもとに分析し、私たちの社会、そして将来に新たな示唆をもたらすような優れた表現活動を挙げた著作物を顕彰します。

毎年1月以降、1年間に刊行された日本語の著作を対象とし、選考にあたっては、推薦委員協力のもと、審査員6名が受賞作を選出します。受賞者には賞状と記念品、副賞100万円を贈呈。あわせて受賞記念イベントの開催も予定しております。

*本賞は公募ではありません。詳細は要項をご参照ください。

ロゴについて

創業期の高島屋は、国内外の博覧会への出展を積極的に行い、そこでの受賞実績は、後に企業の認知度やブランドの形成につながっていきました。今回、本賞のロゴにあしらわれた月桂樹のモチーフは当時の意匠に着想を得たものであり、高島屋が明治期に国際的な評価を受けて価値を見出されたように、創設されたばかりの本賞も、今後長い時間をかけて同時代の都市文化を見つめ、育んでゆく存在でありたいとの願いを託したものです。

一方でロゴの右半分には、都市文化という概念が持つ流動性と暫定性への認識が反映されています。定着することを前提としないその在り方自体が常に問い直されるような賞の性格に呼応するかたちで、都市の記憶や断片を拾い集めるように構成され、年ごとにその姿を変えていきます。

それは、都市文化が本質的に持つ「掴みどころのなさ」を視覚化しようとする試みでもあります。ロゴとは、ふつう意味を固定するためのものですが、このロゴは、あえて意味の流動を引き受けています。変化しつづける都市と、そこに生きる人びとの営みのように、本賞の象徴であるロゴも、また一つのかたちにとどまることなく、複数の姿を通じて、自らを更新し続けていきます。

初年度は20種のバリエーションが用意されており、今後も都市文化の変化とともに、ロゴ自体も更新されつづけていく予定です。都市がとどまらないものであるように、この賞の象徴もまた、継続と変化のあいだに積極的に身を置くことを意図しています。

ロゴデザイン[グラフィック・デザイナー 鈴木 哲生(すずき・てつお)]

1989年神奈川県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業後、隈研吾建築都市設計事務所勤務を経て、2015年にデン・ハーグ王立美術アカデミー タイプメディア修士課程を修了。タイポグラフィからレタリング、ロゴ、イラスト、ウェブサイト、エディトリアルまで幅広い分野で制作。2024年より多摩美術大学グラフィックデザイン学科非常勤講師。

株式会社高島屋・東神開発株式会社について

株式会社高島屋

1831年に京都で古着木綿商として創業した高島屋は、2026年には創業195周年を迎えます。後発の呉服店であった高島屋は、日本が近代国家へと移行していくなかで、博覧会への積極的な出品や受賞によって徐々に知名度を高めていきました。加えて、西洋の生活スタイルの流行を見越して装飾部を創設し、さらに海外販路をつくるために貿易部を設けるなど、時代を先取りする意欲的な取り組みにより、呉服店からデパートメントストアへと大きく姿を変えていきます。

戦後の混乱期には、商品不足により販売すら困難な状況に直面しましたが、そうした苦難も乗り越え、“進取の精神”でその存在感を高めてきました。現在では、百貨店事業にとどまらず、商業開発や金融など幅広い領域に事業を拡大し、グループ企業として多面的な活動を展開しています。

こうした高島屋のこれまでの歩みは、単なる事業の拡大ではなく、人々の生活を支え、彩るために何ができるかを問い続けてきた歴史であり、その問いに対して真摯に応答し続ける営みそのものでした。

社会環境は常に変化し、人々のライフスタイルや価値観は目まぐるしく変わり続けています。わたしたちは長い歴史を持つ企業であることに誇りを持ちながらも、過去にとらわれることなく、これからの時代にふさわしい豊かさや、生活文化のあり方について謙虚に問い直す姿勢を持ち続けたいと思います。時代の変化に感度を高く保ちつつ、豊かな生活文化を牽引してきた百貨店として、さらなる発展の歴史を刻んでいけるよう、これからもお客様の信頼にお応えできる活動を続けてまいります。

東神開発株式会社

日本が高度経済成長の真っただ中にあった1963年、高島屋グループ企業として東神開発は誕生しました。後に本格的な郊外型ショッピングセンターの革新的モデルとなる玉川高島屋S・Cの開業(1969年)を見据えて、ディベロッパーとして設立されたのがはじまりです。

東神開発という社名は、土地買収の過程で高島屋の名が表に出ないようにという配慮から、「東京と神奈川の県境」という地理的条件に由来して命名されました。結果としてその匿名性が、地域とともに開発を進めるという企業姿勢をも象徴するようになりました。

当時、日本における自動車保有率はわずか2%足らず。「郊外に商業施設をつくる」という発想がまだ一般的ではない時代に、未来の都市構造を予測し、モータリゼーションの到来を確信して計画を立てたのは、高島屋調査室所属の一人の社員でした。周到な調査研究で将来性ある郊外エリアとして二子玉川を発見し、田園風景のただなかに商業開発の先鞭をつけたその一歩は、今から見れば、生活と都市の関係をとらえ直す試みの先駆けであったと言えるかもしれません。

以降、柏や流山、日本橋、京都などの各地で、その土地の個性に根ざした商業開発とまちづくりを進めています。またシンガポールでの商業開発を契機に、ベトナムを中心とした海外でのさらなる事業拡大にも挑んでいます。
都市の表情が均質化しがちな時代において、その土地の自然や歴史、文化への理解を大切にしながら、引き続き、開発という営みに真摯に取り組んでまいります。