ART

キュレーター高須咲恵さんが厳選したアートも
GRAND PATIOの魅力。
展示中のアーティストへの
インタビューをお届けします。

Artist

AKI INOMATA

©AKI INOMATA courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY
Artist Russell Maurice

-INOMATAさんは生物とコラボレーションする作品を作られていますが、その原体験は何だったのでしょう?

INOMATA 私は東京生まれなのですが、小さい頃から鉄筋コンクリートのビルが林立した都市空間に違和感や閉塞感を覚えていたことが、原体験として大きい気がします。小学校が大学のキャンパスの中にあって、その敷地には赤とんぼやコオロギがいたり、四季折々のキノコが生えたりしていたんです。「都市」と「自然」、コントラストのあるふたつの空間を行ったり来たりする感覚があったのですが、「これって同時に存在することができないのかな」とか「どうやったら都市がもっと私にとって居心地のいい場所になるのかな」と、当時から疑問を抱いていました。

-その後、作家活動を始めてからは、どのような作品から着手していったのですか?

INOMATA 「都市空間にいかに自然物を持ち込むか」をテーマにして、メディアインスタレーションのようなものを作っていたのですが、思い描いたとおりの作品ができてしまうことに、だんだん疑問を感じ始めました。頭の中にあるイメージの先に進めないのであれば、私自身が都市空間の閉塞感を再生産しているような気がしたんです。それを打ち破るために、まったく違う思考の「共作相手」が必要なんじゃないかと思い、生物とコラボレーションするという発想が生まれたんです。

-生物という予測のできない相手とセッションすることで、制作中に意識が変わったり、作品そのものが変化したりすることもありそうですね。

INOMATA そうですね。やどかりに3Dプリンターで作った殻をわたす『やどかりに「やど」をわたしてみる』(以下、『やどかりの作品』)は、その代表です。やどかりは最初、私の作ったシンプルな殻に入ってくれなくて。そういうときは、やどかりの「思考」を想像しながら観察する。その結果、世界各地の都市を模した殻の形にどんどん変わっていきました。生き物たちには本当にびっくりさせられることが多いです。ミノムシとの共同制作も行ったことがあるのですが、ミノムシもやっぱりミノ作りが本当に上手で。ただただ生き物の仕組みってすごいなと毎回感じています。

Photo: Kenryou Gu

-制作の中で驚きを感じたり、未知の結果にたどりつくことに、INOMATAさんは面白さを見出しているんですね。

INOMATA そうですね。私にとって、制作は「山登り」と似ているのかなと思っています。登った先に何があるのかはわからないけど、頂上にたどり着くまでの過程と得られる結果がすごく面白い。それによって自分もちょっとずつ更新されていくのが楽しいです。

-制作を通して更新された自分が、新しい観点を持って制作に向かうことの繰り返しなんですね。作品のインスピレーションは、どういうところから受けるのでしょうか?

INOMATA たとえば、日常生活の雑談がその時に考えていたことと繋がって、作品のテーマが決まることがあります。『やどかりの作品』の場合は、先にフランス大使館での展示が決まっていたのですが、大使館の土地はフランス領で、60年後に日本の土地として返還されるということを知って、土地が国を行ったり来たりするのが面白いなと思ったんです。そんな時にたまたま、友人から「弟がやどかりを飼っていて」という話を聞いて。大使館の土地とやどかりの引越しが似ていると感じ、作品を作るに至りました。

-実際に作品を見た方の感想はいかがでしたか?

INOMATA フランスから日本に帰化されている方が作品を見て、「このやどかり、僕みたいだ」と言ってくださいました。私は彼のように国籍が変わった経験がないのですが、自分を構成する属性によって「あなたはこうだから」と決めつけられる体験は結構あった気がして。国籍にかかわらず私たちがアイデンティティにしているものって変わりうるんじゃないかと、ちょっとずつ考えが広がっていきました。このように生き物の習性から人間世界との共通項が見えてくるので、「鏡のようだな」と思ったりもしますね。

-やどかりから新しい考えや見え方を学んだんですね。制作を通して、ご自身の目線や意識も変化してきた中で、人間の営みに対してはどのように考えていますか?

INOMATA もともと都市空間に対する疑問を抱いていたこともあり、コロナ禍でその疑問が再燃している感覚はあります。人間が人間以外の存在を無視して開発を進めてきた結果、そのしっぺ返しがきているのではないでしょうか。都市をどう設計するのか、これからは人間以外の生き物を含む他者との共存のあり方から考えなくてはいけないと思います。

-やどかりがその時々の自分の体にフィットした殻を選んでいくことと、人間がこれからの都市空間を考えていくことには、通じる部分があるんじゃないでしょうか。先ほど「鏡のよう」という言葉があったように、INOMATAさんの作品は共作の相手が人間じゃないからこそ、人間の営みを省みるきっかけにもなるんじゃないかなと思います。

INOMATA そうなってくれるといいですね。「私の考えはこうです」ということを伝えたいのではなくて、作品がいろいろなトピックを考える糸口として機能すると嬉しいです。

©AKI INOMATA courtesy of MAHO KUBOTA GALLERY

-今回、「GRAND PATIO」で展示されるのはどういう作品でしょうか?

INOMATA 会期中は前半と後半をわけようと思っています。『やどかりの作品』は通して展示するのですが、前半は女性の服をミノムシに与えてミノを作ってもらう『girl, girl, girl…』という作品、後半はまだ差し替えの可能性があるのですが、ビーバーがかじった木を題材にした『彫刻のつくりかた』という作品をお見せしようと準備を進めているところです。展示会場の「GRAND PATIO」はとてもインパクトがあって什器も魅力的なので、来ていただいた方に楽しんでもらえる展示にしたいです。

Photo: Kenryou Gu

AKI INOMATA

アーティスト。1983年生まれ。2008年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。東京都在住。2017年アジアン・カルチュアル・カウンシルのグランティとして渡米。生きものとの関わりから生まれるもの、あるいはその関係性を提示している。 ナント美術館(ナント)、十和田市現代美術館(青森)、北九州市立美術館(福岡)での個展のほか、2018年「タイビエンナーレ」(クラビ)、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」トリエンナーレデザイン美術館(ミラノ)、2021年「Broken Nature」MoMA(ニューヨーク)など国内外で展示。2020年「AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき」(美術出版社)を刊行。

AKI INOMATA was born in 1983 in Tokyo, Japan, and is currently based in Tokyo.After graduating from Tokyo University of the Arts in 2008, she stayed in New York on an Individual Fellowship Grant from the Asian Cultural Council.
Focusing on how the act of “making” is not exclusive to mankind, AKI INOMATA develops the process of collaboration with living creatures into artworks. She presents what is born out of her interactions with living creatures as well as the relationship between humans and animals.
Her major artworks include Why Not Hand Over a “Shelter” to Hermit Crabs?, in which she created city-like shells for hermit crabs, and I Wear the Dog’s Hair, and the Dog Wears My Hair, in which the artist and her dog wear capes made out of each other’s respective hair.
Her recent exhibitions include “Broken Nature” MoMA, NYC(2021), “AKI INOMATA: Significant Otherness” Towada Art Center, Aomori, Japan(2019), “The XXII Triennale di Milano” La Triennale di Milano(2019), “Thailand Biennale 2018″ Krabi, Thailand(2018) and “Aki Inomata, Why Not Hand Over a “Shelter” to Hermit Crabs ?”(Musee de Nantes, France, 2018).

Art Curation 高須咲恵 SAKIE TAKASU
アーティスト、キュレーター。2011年東京藝術大学大学院美術教育研究室修了。街の中でおこなわれる表現「ストリートカルチャー」に関するリサーチや、展覧会の開催、作品制作をおこなう。主な展覧会に、2017年石巻市「Reborn-Art Festival」アシスタントキュレーターとして参加、2018年市原湖畔美術館「そとのあそび展」共同キュレーションなど。